当院について

身体抑制最小化のための指針

基本姿勢

身体抑制は、患者様の生命の危機と身体的損傷を防ぐために必要最小限に行うもので、患者様の人権を尊重し、安全を優先させ他に代替手段が無い場合にのみ実施する。その際、患者様・ご家族様(同意代行者)に説明し、二次的な身体障害や合併症が発生しないよう十分注意して、常に解除できないか評価しながら行う必要がある。

定義

身体抑制とは、道具または薬剤を用いて、一時的に当該患者様の身体を抑制することで運動を抑制することを言う。

適応要件

身体抑制は「対象の状態」の1~5のいずれかの状態で有り、かつ、「対象の置かれた状況」の1~3の用件をすべて満たす場合にのみ実施する。

対象の状態

  1. 意識障害、興奮性があり、身辺の危険を予知できない。(認識障害)
  2. 治療上の必要な体位を守れず、医療機器やライン類を抜去しようとする。(治療が円滑に進まない)
  3. 自傷、自殺、他人に損傷を与える危険がある。(破壊・粗暴行為)
  4. 転倒・転落の危険が高い。(転倒の危険)
  5. 皮膚掻痒、病的反射などがあり、意思で体動を抑えられない。(その他)

対象の置かれた状況

  1. 生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高い(切迫性)
  2. 身体抑制などの行動制限を行う以外ほかの方法が見つからない(非代替性)
  3. 身体抑制やその他の行動制限が一時的である(一時性)身体抑制のフローチャート

適応要件の確認と承認

医師、看護師が「Ⅲ.適応要件」から協議し決定する。

患者様本人及びご家族様(同意代行者)への説明

  1. 医師は患者様・ご家族様(同意代行者)に身体抑制について説明し、「安全確保のための身体抑制にかかわる説明・同意書」に同意を得る。
  2. 緊急に身体抑制の必要性を生じた場合は、電話にて説明し承諾を得て後日同意を得る。(詳細は電子カルテの診療記事に記載する)
  3. 同意を得られない場合は、危険を回避できないことがあることを医師が説明し、電子カルテの診療記事に記載する。
  4. 患者様にご家族様(同意代行者)がいない場合で、本人に同意を得られる状況でない時は電子カルテの診療記事にそのことを記載し、医師・看護師で協議の上、身体抑制の実施を検討する。

身体抑制の看護

身体抑制が必要な際は看護計画を立案する。

抑制方法

抑制部位に適した抑制用具(巻ベルト、ミトン、抑制帯、抜針予防ホルダー、抜針予防カバー、センサークリップ、センサーマット、つなぎ寝衣、車いす用安全ベルト等を選択し、必要部位にしっかり装着する。

観察について

観察期間

  • 抑制直後に問題がないかを確認し、その後は巡視ごとに観察を行う。

観察事項

  • 患者様の精神状態(不安・ストレス等)
  • 体動状況
  • 抑制による二次的障害の有無(呼吸・循環障害、末梢の循環障害、神経障害関節拘縮等)
  • 抑制部位の皮膚の状態
  • 状況に応じてバイタルサイン測定

記録

  1. 身体抑制の目的、それに至るまでの患者様の状況
  2. 患者様及びご家族様(同意代行者)への説明内容と同意の有無、説明したご家族様(同意代行者)の続柄
  3. 抑制開始日時・抑制部位・抑制に使用した物品
  4. 観察時間・観察事項

注意事項

  1. 行動制限に関する同意書があることを確認する
  2. チューブ類に手が届かないことを確認する
  3. 身体抑制による二次的障害に注意する
  4. 患者様の訴えに注意を払う
  5. 誤嚥や窒息など不慮の事態に備え、対策を考慮しておく
  6. ナースコールは手元に設置する
  7. 抑制の部位や期間は最小限にとどめるよう、心身の観察とアセスメントを行う
  8. 身体抑制の必要性を毎日カンファレンス等で検討しカルテに入力する
  9. 記録内容はスタッフ間・ご家族様(同意代行者)等関係者間で共有する
  10. 身体抑制の開始、終了の記録をカルテに入力する

その他

必要に応じ精神科などの専門医に相談する

身体抑制の方法

必要物品

各種用具(巻ベルト、ミトン、抑制帯、抜針予防ホルダー、抜針予防カバー、センサークリップ、センサーマット、つなぎ寝衣、車いす用安全ベルト等)に破損がないか、使用前に必ず確認する。

抑制手技の実際

ミトン型

  1. 患者様・ご家族様(同意代行者)に抑制の必要性、方法を説明し「安全確保のための身体抑制にかかわる説明・同意書」にサインしてもらう。
  2. 患者様にミトンを装着する。
  3. 抑制部位と抑制の状況、二次的障害の有無を観察して記録する。

車いす用安全ベルト

  1. 患者様・ご家族様(同意代行者)に抑制の必要性と方法を説明し、「安全確保のための身体抑制にかかわる説明・同意書」にサインしてもらう。
  2. 車いすに安全ベルトを置き、股下のベルトを座席と背もたれの下部に通す。
  3. 患者様を車いすの中央に座らせ、腰回りのベルトを背もたれの後方でジョイントし、ベルトの長さを調整する。
  4. 抑制部位と抑制の状況、二次的障害の有無を観察して記録する。

抑制帯

  1. 患者様・ご家族様(同意代行者)に抑制の必要性と方法を説明し、「安全確保のための身体抑制にかかわる説明・同意書」にサインしてもらう。
  2. 手首、足首の太さにあった抑制帯を選ぶ。
  3. 手や足の動きをみてベルトの長さを調整する。
  4. 抑制部位と抑制の状況、二次的障害の有無を観察して記録する。

その他

  1. 身体抑制中は頻回に訪室し、体位交換する。車いすでは臀部の除圧を図る。
  2. 抑制部位の圧迫や摩擦を生じる場合は、ガーゼやタオルで保護する。
  3. 解除用マグネットキーは紛失しないよう管理する。

身体抑制解除の基準

  1. 身体抑制の適用要件を満たさなくなった場合には、速やかに解除する。解除する場合は、どのように判断したかその根拠を記録に残す。
  2. 二次的な障害が発生した場合は、速やかに医師に報告する。

身体抑制をしないための工夫、取り組み

観察の強化

  1. ナースステーションの近くの部屋へ移動する。
  2. 離床センサーの活用
  3. 車いすに移乗し目の届く範囲で観察する
  4. 患者様のそばを離れるときは、スタッフ間で声をかけ注意し合う。

ベッドを含めた病室環境の工夫

  1. 転落の危険性がある場合、ベッドの高さは低くする。
  2. ベッド柵の周囲の隙間をクッションやカバーなどで埋める。
  3. ベッド上及び周囲の整理整頓を行い、不必要なものを置かない。

静脈ルート、ドレーン、カテーテル類の固定方法の考慮、患者様の自己抜去防止

  1. チューブ類は目や手の届かない位置に固定する。
  2. 輸液ポンプ類は患者様の手の届かないところに設置する。また、必要時には患者様に見えないようにする。
  3. 手袋、包帯、介護衣などを使用する
  4. 点滴は刺入部位に直接手が届かないように包帯などで保護し、ルートは見えないよう寝巻の袖を通すなどの工夫をする。
  5. 静脈ルートやドレーン類、膀胱留置カテーテルはできるだけ早期に抜去する。
  6. ルート挿入中でも ADL 低下を防ぎ気分転換を図る。
  7. 必要時には患者様の精神的安定を図るためご家族様(同意代行者)への協力を依頼する。

身体抑制最小化のための組織体制

高齢化対策(身体抑制最小化・転倒転落・認知症)委員会の設置

設置

森下記念病院は、身体抑制を最小化することを目的として、既存の高齢化対策委員会を高齢化対策(身体抑制最小化・転倒転落・認知症)委員会とする。
委員会及び委員会出席者は既存の高齢化対策委員会に置き換え開催とする。

高齢化対策(身体抑制最小化・転倒転落・認知症)委員会開催

定期開催:年12回(毎月 第1金曜日)
臨時開催の実施権限は委員全員にある。

構成員とその役割

委員長:病院長
高齢化対策(身体抑制最小化・転倒転落・認知症)委員会の最終責任者及び諸課題の統括責任
委 員:医療安全管理委員長、看護部長、高齢化対策委員(看護師、理学療法士、視能訓練士、事務)
高齢化対策(身体抑制最小化・転倒転落・認知症)委員会出席者は、医療安全管理委員長、看護部長、高齢化対策委員とし、DDSTと情報共有していく。議事内容によりDDSTメンバーの出席を依頼する。

  1. 身体抑制等最小化における措置の適切な実施
  2. 身体抑制等最小化に関する職員教育
  3. 家族との連携調整
  4. 院内のハード・ソフト面の充実

委員会の検討項目

  1. 身体抑制等最小化に関する指針等見直し
  2. 身体抑制等の実施状況についての検討・確認
  3. 身体抑制等の代替案、抑制解除に向けての検討
  4. 「身体抑制最小化チーム」からの情報収集と検討結果の周知
  5. 身体抑制を実施せざるを得ない場合の検討・記録の確認
  6. 身体抑制廃止・改善のための研修計画、啓発

記録および周知

委員会での検討内容及び結果については、議事録を作成し保管するほか、議事録をもって職員へ周知を行う。

「身体抑制最小化チーム」の設置

設置

森下記念病院は、身体抑制の最小化を推進することを目的として、身体抑制最小化チームを設置する。高齢化対策委員会(看護師、理学療法士、視能訓練士、事務)のメンバー及びDDSTメンバー(医師、看護師、薬剤師)を身体抑制最小化チームに位置付ける。

開催と役割

身体抑制最小化チームとして会議開催が必要な場合は毎月第2水曜日開催の医療安全管理委員会で協議する。

  1. 身体抑制の実施状況を把握し、職員に周知する。
  2. 身体抑制対策委員会との連携をとり身体抑制最小化を推進する。
  3. 身体抑制最小化に係る指針の見直しを行い職員に周知する。
  4. 日常的ケアをモニタリングし、患者の人権を尊重した適切なケアが実施されているか確認する。
  5. 職員対象に身体抑制最小化に係る研修を高齢化対策(身体抑制最小化・転倒転落・認知症)委員会と連携し実施する。

構成員

委員長:専任医師
DDSTメンバー(医師、薬剤師、看護師)で構成する。

委員会・チームの構成メンバーおよびその他の職員の責務と役割

担当者 責務・役割
病院長 高齢化対策(身体抑制最小化・転倒転落・認知症)委員会の統括責任者
身体抑制における諸課題の最高責任者
看護部長、事務部長、医療技術部長 現場における諸課題の統括責任者
看護課長・副課長 身体抑制実施時の看護計画立案や評価、職員への指導、患者・家族等に対する説明
医師 医療的ケアに関する検討、助言
DDST 身体抑制の実施状況の把握と廃止に向けた働きかけ
(必要に応じ)
看護師、看護補助者、その他関係職員
専門性に基づく適切なケア、身体抑制実施時のモニタリングと評価

身体抑制最小化のための職員教育に関する基本方針

森下記念病院では、すべての職員に対して、身体抑制最小化と人権を尊重したケアの励行を図るために職員教育を行う

  1. 全職員対象とした身体抑制最小化に関する教育研修(転倒転落、認知症含む)を開催する。
  2. その他、状況に応じ必要な教育・研修を実施する。
  3. 研修に当たっては実施日・実施場所・方法・内容等を記載した記録を作成する。

この指針の閲覧について

森下記念病院の身体抑制最小化に関する指針は、求めに応じていつでも自由に閲覧できるように院内掲示し、ホームページに公表する。

2020年4月作成
2024年2月改訂
2024年5月10日一部改訂

身体抑制のフローチャート