塩分と高血圧、塩分と慢性腎臓病(CKD)の関係
塩分過剰摂取の身体への影響
塩分の摂り過ぎは身体に影響を及ぼすことが知られており、塩分を控えた食事や減塩調味料など減塩に対する意識が高まってきています。
当院の位置する相模原市の相模原市保健医療計画(1)によると、2016年の調査で63.5%の市民が塩分制限を心掛けていると回答しており比較的多くの方が減塩を意識していると考えられます。
ここでは塩分過剰摂取の身体への影響と塩分摂取量の測定についてご説明いたします。
食塩は塩化ナトリウムであり、ナトリウムは私たち人類にとって重要な電解質のひとつです。塩が貴重であった古代ローマ時代は、兵士たちの労働の対価として塩が供給されていたという逸話もあり、塩のsaltは給料のsalaryの語源であることも知られています。この私たちの身体にとって大切な塩ですが、現代社会においては、ついつい取りすぎてしまうことも多く、とりすぎることで健康への影響が知られています。
塩分の取り過ぎによる健康への影響で以前より広く知られているのは血圧の上昇です。その仕組みは、塩分の過剰摂取により血液中のナトリウムが増え濃度が濃くなり、これを薄めて一定の濃度にしようするときに、血管外の水分が血管内に引き込まれます。このため血管内を流れる血液の量が増え、血管壁に圧力がかかり血圧が上昇します。血液量とは別に、ナトリウム自体が交感神経を刺激することで血管収縮を起こして血圧が上がりやすくなる作用もあります。実際に減塩による降圧効果は多く報告されてきており、減塩による介入で降圧薬の効果を高めることも報告されています。(2,3)
さらに、塩分のとりすぎは血圧のみならず、慢性腎臓病(CKD)にも影響を与えることが分かってきています。食塩の過剰摂取が高血圧を発症し、高血圧そのものが慢性腎臓病発症の原因となり、さらに血圧が高い状態が続くことで慢性腎臓病の病態を悪化させます(4)。また、食塩の過剰摂取が、腎臓での血液のろ過の際に過剰な負担となること(糸球体過剰濾過)、尿蛋白の増加に関連していることも報告されています(5,6)。動物実験では塩分負荷が腎臓での酸化ストレスの増加により腎障害が引き起こされることも明らかにされています(7)。このため慢性腎臓病の管理の重要なポイントとして、減塩による腎機能低下抑制効果が注目されています。加えて、食塩の過剰摂取が、脳卒中や心血管疾患の発症および死亡リスクとなることも報告されています(8)。
以上のことからも、減塩を意識することが身体への影響を考えると重要であることが分かります。このため日本高血圧学会は、糖尿病や慢性腎臓病の方のみならず、血圧が正常な方にも食塩制限(可能であれば1日6g未満)を推奨しています(9)。しかし、厚生労働省による2019年の国民健康・栄養調査結果によると、国民の食塩摂取量は平均が10.1g、男性10.9g、女性9.3gであり(10)、現状では目標となる6g/日を上回っています。
塩分摂取量の測定
理想の塩分摂取量に近づけるために、調理法の工夫や食事の塩分含有量についての知識を習得すること、そして栄養士による栄養指導を受けることはとても大切です。しかし、実際に食事中の塩分をすべて計算することは、難しいことが多いと思います。
そこで、一日当たりどのくらいの塩分を摂取しているかを測る検査について説明します。
塩分をどれくらいとっているかは、尿検査で調べることが出来ます。これは、食事によって摂取したナトリウムは、その95%以上が腎臓から尿として排出されるため、尿中のナトリウム量を測定する事で塩分摂取量が把握できるという仕組みです。そのため、正確に塩分摂取量を把握する方法として「24時間畜尿(ちくにょう)」が行われています。24時間畜尿とは、ある時刻から翌日の同じ時刻までの24時間で排泄された全ての尿をためて検査に提出する方法です。この畜尿方法は正確な排泄量が把握できる一方で、検査自体が簡易的ではなく、なかなか外来で実施することが難しい場合があります。そこで、簡易的に測定する方法として随時尿(早朝尿以外に単発で採取する尿)を用いた計算式の利用が推奨されており、当院でも“一日推定塩分摂取量”として算出しております。もちろん24時間畜尿に比べると信頼度は劣りますが、外来通院時の尿検査で測定することが可能です。
塩分摂取測定法
検査の種類 | 外来時の検査可否 | ||
---|---|---|---|
24時間畜尿 | 24時間で排泄された全ての尿をためて検査 | × | 検査自体が簡易的ではなく外来での実施が困難 |
随時尿 | 早朝尿以外に単発で採取する尿を用い一日推定塩分摂取量を計算 | ◯ | 外来通院時の尿検査で測定することが可能 |
ここで、一日推定塩分摂取量の算出方法について説明いたします。
ここでは当院でも採用されている田中法(11)という計算方法を用いて紹介します。
=21.98×〔随時尿Na(mEq/L)/随時尿Cr(mg/dL)/10×24時間尿Cr排泄量予測値*〕^0.392
・推定1日食塩摂取量(g/日)
=24時間尿Na排泄量(mEq/L)/17
*24時間尿Cr排泄量予測値(mg/日)
=体重(kg)×14.89+身長(cm)×16.14-年齢×2.04-2244.45
少し複雑な計算式になっておりますが、つまるところ、来院時の尿中ナトリウム濃度、尿中クレアチニン濃度、身長、体重、年齢の情報があれば1日当たりの推定の塩分摂取量が計算出来るのです。随時尿を用いた推定塩分摂取量の算出は、高血圧やCKD(慢性腎臓病)のガイドラインでも推奨されており、ともに上記の田中の式が使用されています(12,13)。
塩分摂取量測定検査についてのQ&A
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Q検査結果は何日前の食事の影響を受けますか?A検査結果はおおよそ検査前日を中心に検査前数日に摂取した食事の推定塩分摂取量が反映されると考えられています。当日の水分摂取量にも影響を受けるとも可能性もありますので、検査を受ける際は「いつも通り」を心がけることをおすすめします。
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Q検査前の数日間に食生活を変更すると、検査結果に影響がでますか?A極端に変更すると影響します。たとえば、正常の人に生理食塩水を点滴する(すなわち塩分を多く摂取する)と、塩分の排出量が増えます。そのほかに食事中の蛋白質の摂取量が増えると直後の尿中クレアチニン量が増える可能性があり、極端な食事の変更は検査結果に影響を与える可能性があります。また、尿中クレアチニン濃度は食事だけでなく、激しい運動後や発汗後に増加することが予想されます。
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Q利尿剤など服用していますが、数値に影響するのでしょうか?A用法を守って服用すれば影響は大きくないと考えられます。一般的に利尿剤は、腎臓でろ過され尿中に排泄されたナトリウムを再び体内に取り戻す働き(再吸収)を阻害し、ナトリウムを体外へ排出することで利尿を得る(尿量を増やす)働きがあります。そのため、初めて利尿剤を飲んだ場合、尿中ナトリウム濃度が上昇し、推定塩分摂取量が高くなる可能性があります。しかし、1週間程度経過するとナトリウムのバランスが安定することが推測されており、普段通り服用して検査を受けることが望ましいと考えられます。
1日の塩分摂取量は高血圧や腎臓への負担を未然に防ぐ、または悪化を防ぐために重要な情報であり、随時尿を用いた簡便な検査が外来通院で行うことができます。気になる方はぜひ、尿検査を行い確認してみましょう。
参考
(1) 相模原市 相模原市健康保険医療計画 さがみはら健康プラン21
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/358/keikaku.pdf
(9) 日本高血圧学会 減塩・栄養委員会
https://www.jpnsh.jp/com_salt.html
(10) 厚生労働省 令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf