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BLOG第31回 腹膜透析患者さんの亜鉛欠乏症について

2020.08.27

腹膜透析患者さんの亜鉛欠乏症について

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、こんにちは、院長です。

 

今回は最近の研究を紹介しつつ、腹膜透析患者さんの亜鉛欠乏症についてお話ししようと思います。

腹膜透析の日本人患者における亜鉛欠乏症の有病率:血液透析患者の比較研究
Prevalence of Zinc Deficiency in Japanese Patients on Peritoneal Dialysis: Comparative Study in Patients on Hemodialysis. S Shimizu, et al. Nutrients 2020, 12, 764.  
(参考元:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7146559/

 

そもそも亜鉛とは、細胞の代謝や成長、組織の重要な役割を果たす不可欠な微量元素(ミネラル)のひとつです。亜鉛には抗酸化作用と抗炎症作用があり、体を維持するのに重要な栄養素です。亜鉛が欠乏することで、食欲不振、嚥下障害、貧血、認知機能障害、皮膚炎、口内炎、脱毛、とこずれ、味覚障害などを発症しやすいことが知られています。

 

これまでに血液透析患者さんを対象とした研究で、透析による亜鉛の除去や食事摂取量不足、消化管での亜鉛吸収量の減少などによって、亜鉛欠乏症を発症しやすいことが報告されていました。しかしながら、腹膜透析患者さんにおける亜鉛欠乏症の有病率というのはあまり十分に調べられていませんでした。腹膜透析患者さんにおいても、亜鉛欠乏症の早期発見と適切な亜鉛補給を行うことは大切であると考えられるため、本研究では、腹膜透析患者と血液透析患者の亜鉛欠乏症の有病率や、その臨床的特徴を比較し検討しています。

 

今回の研究では、腹膜透析または血液透析患者さんそれぞれ47人のデータを解析し、比較検討しています。血液中の亜鉛値を測定し、血清亜鉛値 < 60 g/dLを臨床的亜鉛欠乏症、60~80 g/dLを不顕性亜鉛欠乏症と定義し、腹膜透析群と血液透析群についてそれぞれ検討したところ、臨床的亜鉛欠乏症は腹膜透析群の59.6%、血液透析群の70.2%に認められました。また、不顕性亜鉛欠乏は腹膜透析群の40.4%、血液透析群の29.8%に認められました。なお、この2つの群の差に関しては、統計学的に有意な違いではなかったようです。

 

さらに解析を行った結果、高齢、低BMI(やせ型)、低アルブミン血症が、亜鉛欠乏症を予測する因子であったということです。社会全体として高齢化が進行しており、腹膜透析を受けている方においても同様に高齢の方は増えてきています。今後そうした亜鉛欠乏症のリスクが高い方に対して今よりも積極的に亜鉛欠乏症の検査を行い、介入していくことは大切なことかもしれません。今回の研究は患者数が比較的少なく、単一施設における検討であるため、その点は解釈において注意が必要です。また、亜鉛を積極的に補給することが果たして本当に高齢の透析患者における栄養失調や、その他の症状を改善するかどうかについては、さらなる研究が必要であると述べられています。

 

現在、亜鉛欠乏の透析患者さんに対して、亜鉛補充をどの程度、どのくらいの期間で行うべきかということに関して、一律の見解は無く、検討課題となっています。薬剤による亜鉛補充により、鉄や銅の代謝に影響を与えること、吐き気やおなかの痛みが出ること、下痢になることなどが報告されており、補充は効果が見込めるものの、摂ればとるほどいいというものではないようです。

 

透析患者さんの亜鉛欠乏の原因としては、血液・腹膜透析共に、透析による除去や消化管からの喪失、そしてたんぱく質の摂取不足などが挙げられます。これらの中で透析による除去や消化管からの喪失はなかなかコントロールすることは難しいかもしれませんが、適切なたんぱく質の摂取に関しては介入しやすく、改善できる余地があるかと思います。今回は亜鉛欠乏の話でしたが、患者さんご自身のご年齢や体形に即した食事内容について、定期的に確認し、見直してみることは亜鉛欠乏に限らずよりよい生活を送るうえで重要ではないかと思われます。