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BLOG第32回 臨床研究の論文が掲載されました

2020.08.31

臨床研究の論文が掲載されました

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、こんにちは、院長です。

 

このたび、私が大学医局に属していた時から継続していた臨床研究が、英文誌BMC Nephrologyに掲載されました。(https://bmcnephrol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12882-020-02033-y

より詳細な内容については後日のブログでまたご紹介したいと思いますが、今回は簡単に内容についてお伝えします。

 

透析患者における、慢性腎臓病における骨・ミネラル代謝異常(Chronical l Kidney Disease-Mineral and Bone Disorder: CKD-MBD)の管理は、心血管疾患(心不全や脳卒中)のリスクにかかわるために重要と位置付けられてきました。そのなかのカルシウムの管理については、臨床現場では、経済性や利便性が考慮されて生物学的活性を持つイオン化カルシウム(iCa)の代わりに補正カルシウム(cCa)値によるカルシウムの管理が行われています。しかし、iCaとcCaの関係性は常に一定ではなく、私たちは以前に、iCa / cCa比が血液透析患者と腹膜透析患者で異なることを報告しました(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27345183/)。

腹膜透析患者において、いくつかの要素がiCa / cCa比に影響を与えると予想されますが、実際に研究されたことはありません。そこで、よりよい腹膜透析患者のCKD-MBDの管理につなげるために、腹膜透析患者におけるiCa / cCa比に影響を与える要因を調査しました。

 

対象となった患者をiCa / cCa比の数値での三分位に分け、患者背景と検査データを比較しました。また、重回帰分析を使用して、iCa / cCa比に影響を与える要因を調査しました。

 

合計で169人の腹膜透析患者が本研究の対象となりました。iCa / cCa比が低い群では、腹膜透析期間が長く、pHが高いという結果でした。さらにiCa / cCa比が高い群よりも、iCa / cCa比が低い群で残存腎機能(透析開始後も残っているご自身の腎臓の機能)が低いという結果でした。そして、残存腎機能とpHがiCa / cCa比に影響する独立した因子でした。

 

これらの結果から言えることは、同レベルのcCa値(現場で使用されているカルシウム値)であっても、iCa値(実際に生理学的活性をもつカルシウム)は、残存腎機能が低い患者さんでは低下しているということです。このことから、cCaの値で一律に患者さんを評価した場合、生理学的活性を持つiCaの評価とのずれが生じ、適切なカルシウム管理が出来ない可能性があります。今回の結果を考慮しながらカルシウムの評価、そしてCKD-MBD管理を行うことで、心血管疾患を合併するリスクを低下させる可能性があるかもしれません。

 

 

臨床現場で疑問に思うことを解決すること、そして腎不全の方のよりよい管理を目指すこと、という二つの目的がこのような形になったことは、また今後のモチベーションに繋がります。日常の患者さんの診察や治療に加えて院長業務もある中で、楽といえる仕事ではありませんが、これからも発信できるように頑張っていきます。