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BLOG第175回  SGLT2阻害薬の腎臓における機能についてのお話

2023.04.18

SGLT2阻害薬の腎臓における機能についてのお話

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

ちょうどこのブログはWBCが終わったあとに書いていますが、侍ジャパンの活躍によって久しぶりに日本が元気になった感じがしましたね。侍ジャパンの一体感はすばらしいものであり、当院の透析室でも応援している患者様とスタッフの一体感が伝わってきました。個人的には、日頃応援している巨人軍の選手も臆することなく、元気に世界で活躍していたことがさらに嬉しかったです。

 

さて、本日はすでに慢性腎臓病(CKD)の治療の重要な位置づけになっているSGLT2阻害薬についてのお話です。

 

アメリカ腎臓学会から臨床医向けに発行されているClinical Journal of American Society of Nephrology誌に2023年に掲載された、これまでのSGLT2阻害薬の機序についてまとめられた論文です。
SGLT2阻害薬の腎臓保護作用
Kidney-Protective Effects of SGLT2 Inhibitors
CJASN 18: 279–289, 2023.

 

最初は血糖管理(血糖降下薬)として開発された、ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2阻害薬)は、現在では糖尿病の有無にかかわらず、CKDの進行を遅らせるための臨床診療ガイドラインの不可欠な部分になっています。

このSGLT2阻害薬は、腎臓では主に尿細管と呼ばれる血液をろ過したあとに電解質や糖分や酸塩基などの吸収や分泌を行う部位に作用します。そして糖やナトリウムを尿から排泄し、この尿細管での作用により腎保護効果を介助する下記のような血行動態および代謝の変化が起こります。

  • 近位尿細管細胞の作業負荷の減少と解糖系の異常な増加を防止することが急性腎障害のリスクを軽減する。
  • 尿細管糸球体フィードバックを活性化すること、血圧を抑えること、組織のナトリウム含有量を減少させることにより、糸球体内圧が低下し腎臓の仕事負担が軽減する。
  • ケトン生成を活性化する飢餓を連想させる栄養感知経路の導入、オートファジーの増加、活性酸素産生を伴わないミトコンドリアを通じた炭素の流れの回復をする。
  • 熱産生の増加による基礎代謝率の低下を伴わない体重を減少させる。
  • 糸球体毛細血管に悪影響を及ぼし、交感神経流出の増加を知らせるアディポカインの放出の減少に寄与する腎周囲脂肪の量と特徴の変化をもたらす。
  • リン酸塩とマグネシウム再吸収を増加させる。
  • 尿酸排泄を増加させる。

難しい内容になってしまいましたが、要するにSGLT2阻害薬はイメージとして直接的に腎臓を保護するような効果がありそうだということです。今までCKDに対しての治療の多くは血圧、血糖、尿酸値、脂質に対する薬剤や、尿蛋白を減らす効果のある薬剤など、腎臓に直接的に働きかけるというよりは、腎臓に負担を与えないことや動脈硬化など血管障害の進行を防ぐことでCKDの進行を予防するものでした。このSGLT2阻害薬は新たな作用機序でCKDの進行を防ぐことが期待されます。

 

ただし、尿から糖を排泄することで水分も多く排出するために脱水に注意が必要なこと、尿路感染症を誘発しやすいこと、エネルギー喪失から脂肪分解が促されるため体重減少しやすいこと、などいくつかの注意点があります。そしてこれらの注意点を考慮すると、ご高齢であることや尿路感染を起こしやすい女性は特に服用開始に際して注意が必要となります。また、CKDがすでに進行している方には使用適応が難しく、このSGLT2阻害薬を使用すると一時的に腎機能が低下する可能性も考慮する必要があります。ということで、CKDの方であればどなたでもSGLT2阻害薬を始める、というわけではないのでご注意ください。

 

この薬は前述したように、最初は血糖管理のために開発された薬でしたが、その後多くの腎保護作用や心不全治療に対する良い成績が発見され、世界に広く浸透している薬です。少し話は大きくなってしまいますが、普段の生活でも初めに何かを意図して始めたことが、結果的に当初の目的以外にもいい効果をもたらすことを、時々経験します。一点だけを見据えるのではなく、大きな視野をもっていけるようにしていきたいものです。