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BLOG第221回 亜鉛とCKDと高血圧③

2023.12.11

亜鉛とCKDと高血圧③

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

今回も亜鉛欠乏とCKDと高血圧の前回と前々回に引き続きの最後のお話です。今回は亜鉛欠乏に対する亜鉛補充の期待についてお伝えいたします。

前回ブログ
BLOG第回 亜鉛とCKDと高血圧①
BLOG第回 鉛とCKDと高血圧②

 

昨今の高血圧を伴うCKD患者さんの治療戦略としてはナトリウム(塩分)のバランスを是正して血圧を下げることが試みられています。例えば、ACE阻害薬やARBといわれるカテゴリーの降圧剤の効果を塩分制限食により十分に発揮させることや、サイアザイド利尿薬やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬というカテゴリーの降圧剤を用いて遠位尿細管でのナトリウムの再吸収を抑制することなどが挙げられます。しかし、塩分制限を行いながらこれらの降圧剤を単剤のみならず複数服用しているにもかかわらず、血圧が目標管理に届かない場合ことも多々見受けられます。その一つの原因は、これらの利尿薬や降圧剤が体内における亜鉛の恒常性も変化させ、亜鉛欠乏を惹起している可能性がいくつかの報告で示唆されています。

 

亜鉛の推奨されている摂取量としては、一日当たり男性で11mg、女性で8mgとされています。亜鉛は今回の血圧やCKDに関する話題のほかにも細胞の代謝や、免疫機能、造血についてもサポートするなど多くの機能が知られています。そして亜鉛の補給は、体内での抗炎症作用、抗線維化作用、抗酸化作用により、多くの症状に対する潜在的な治療戦略となりえます。そして、亜鉛が腎臓でのナトリウム排泄機能と血圧調節に重要な役割を果たしていることから、高血圧に対する降圧作用と腎臓の保護作用も示すことが明らかになっています。このほかにも、CKDを意図的に発症させたネズミの実験では、亜鉛の補給により糖尿病性腎症の進行が遅くなり、亜鉛の抗線維化効果により腎臓の形態変化が軽減されたという結果が出ています。

 

CKDの患者さんで血清亜鉛濃度が低い方では、亜鉛を含む薬剤の腎保護効果が高く、亜鉛補充による抗酸化作用や抗炎症作用によりCKDの進行または死亡のリスクが62%減少したという報告もあり、亜鉛の補充は、亜鉛欠乏を伴うCKD患者さんの進行を防ぐ効果的な治療戦略となる可能性があります。また、CKDでは尿から亜鉛の喪失が起こることを述べましたが、尿からの喪失があるとしてもCKDの患者さんに亜鉛の補充は効果があると考えられています。

 

亜鉛補充の注意点として、高用量の亜鉛摂取後の急性症状に腹痛、吐き気、嘔吐、そして嗜眠、貧血、めまいなどの神経障害を起こすことがあるため、漫然と亜鉛補給をすることのリスクもあります。この原因として、長期間、高用量の亜鉛を補給することで、銅の摂取が妨げられるため、亜鉛摂取による毒性影響の多くは、実際には銅欠乏に起因する症状とも考えられており、かつ急性亜鉛中毒はまれな事象であると考えられています。

 

CKDと血圧管理に対する亜鉛欠乏の病態が判明しつつあり、亜鉛補充の期待が持たれますが、有益な効果を直接証明する証拠はまだ不十分であり、今後のさらなる大規模な臨床試験が望まれています。

 

個人的には、様々な角度から病態が明らかになり、少しでもCKDの進行や発症、そして血圧管理を改善できうる治療の選択肢が増えていくことは望ましいことだと思っており、今後の亜鉛のさらなる研究結果にも注目していこうと思います。