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BLOG第220回 亜鉛とCKDと高血圧②

2023.12.07

亜鉛とCKDと高血圧②

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

今回も亜鉛欠乏とCKDと高血圧の前回に引き続きのお話です。今回は亜鉛欠乏の腎臓における病態についてお伝えいたします。

BLOG第回 亜鉛とCKDと高血圧①

 

CKDと亜鉛欠乏の関係性で、尿からの亜鉛の消耗(排出)が近年明らかになってきているポイントです。GFRが低下すればするほど亜鉛の排出は増加し、CKDステージ3になると急激に多く排出されていくことが報告されています。また、血圧と亜鉛の関連については、CKDを伴っていなくとも、高血圧であることが独立した亜鉛の尿からの排出増加のリスクとなります。さらにはCKDを伴わずに、高血圧かつ亜鉛排出増加の状況であることが3年以内にCKDを併発するリスクとなることも報告されています。つまり、尿からの亜鉛排出増加による亜鉛欠乏状態が、腎機能の低下の早期サインであり、またCKDの進行を促してしまう因子であることが示唆されます。

 

冒頭でも述べましたが、CKDと高血圧は関連深く、90%以上のCKD患者さんは高血圧を合併しており、CKDは治療抵抗性の高血圧のリスクでもあります。CKDと高血圧が相関して悪化する要因としては、レニン-アンギオテンシンと呼ばれるホルモンの活性化、低下するGFR、変化する血管反応性、交感神経の活性などがあります。そしてCKDと高血圧の相関の要因のなかで、亜鉛欠乏が関連することとして、ナトリウムを体内に保持する機構が考えられています。塩分を摂取することは体内に水分を貯留(ナトリウムは水分を一緒に引っ張るので)することになり、体内の水分量(体液量)は血圧に影響を与える因子となっています。CKDが進行するにつて、血圧は体液量、すなわち体内のナトリウムによる影響を受けやすくなると考えられています。体内にナトリウムを貯留することに亜鉛欠乏が寄与するため、亜鉛欠乏は高血圧とCKDの進行のサイクルを促進してしまう可能性があります。

ここから少し細かい話になりますが、亜鉛欠乏がナトリウム貯留を誘引する機序を説明いたします。
腎臓で尿を生成する過程において、ナトリウムの大部分は近位尿細管で再吸収される一方で、遠位尿細管で微調整されており、このナトリウムの出納が体液量の増減に寄与し、最終的に血圧に影響を与えます。亜鉛は腎臓の遠位尿細管でのナトリウム再吸収における調節的役割を担っており、亜鉛欠乏状態ではナトリウムが貯留されやすくなってしまいます。さらにCKDでは、遠位尿細管の機能がダメージを受けており、ナトリウムの出納の調整がうまくいかずに半分以上の患者さんでナトリウム貯留傾向となり、それによって高血圧の発症と持続が促進されます。動物実験では、亜鉛欠乏食を与えたマウスは高血圧を示し、同時に尿中ナトリウム排泄量が減少していること、そして利尿薬(遠位尿細管でナトリウム再吸収を抑制しナトリウム排泄を増加させる)を摂取させることで血圧管理の機構が回復することが示されています。さらに、亜鉛欠乏食を与えたマウスは、尿中のナトリウム排泄の問題とは別に、酸化ストレス、腎臓の線維化、アルブミン尿などの腎臓損傷の複数のマーカーの発症も示しました。これらと同じ病理学的事象が人間のCKD の状況でも発生する可能性があります。

 

また、長くなってきましたので、続きはまた次回に。