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BLOG第219回 亜鉛とCKDと高血圧①

2023.12.04

亜鉛とCKDと高血圧①

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

皆さんは日々の食事の成分で亜鉛を意識されたことはありますか?
あまり意識することがない方が多いのではないかと思いますが、本日は亜鉛というミネラルと腎臓や血圧についてのお話をしていきます。

 

アメリカ腎臓学会の刊行誌であるKidney 360誌に2023年に掲載された論文を読み、亜鉛についての知識が深くなりました。

亜鉛欠乏:慢性腎臓病と高血圧に有害なサイクルの潜在的な推進力
Zinc Deficiency:A Potential Hidden Driver of the Detrimental Cycle of Chronic Kidney Disease and Hypertension Kidney360 4(3): p 398-404, March 2023

 

CKD(慢性腎臓病)と血圧はきってはきれない関係であり、CKDにより血圧が上昇し、一方で高血圧によりCKDは悪化します。もちろん、高血圧に対して降圧薬(血圧を下げる薬)で血圧の管理を行う必要があるのですが、90%以上のCKD患者さんは血圧の管理が不十分であるというデータがあります。これを考慮して、アメリカ国立衛生所では血圧やCKD管理のために食事のアプローチが提案されました。その一つが亜鉛です。

 

CKD患者さんは、一般的に亜鉛欠乏をいくつかの理由で伴っています。その理由としては、

  1. 蛋白制限食
  2. カロリー摂取減少
  3. 腸からの吸収低下
  4. 高尿酸血症の併発
  5. 腎臓での再吸収低下とそれに伴う尿からの排泄増加
  6. 便からの排泄増加
  7. (血液透析の場合は)透析による消失

が挙げられます。

CKDの発症と進行に対する亜鉛の影響がいくつかの調査で明らかにされるに従い、亜鉛の補給は効果的な治療戦略になりうることが認識されつつあります。より効果的に亜鉛補充を行うには亜鉛の血行動態、腎機能、血圧の調整機構との相互作用の理解が望ましく、そこでこの論文は亜鉛とそれらの関連について言及しています。

 

人間の体には2-3gの亜鉛が存在しており、そのなかで50%が筋肉に、30%が骨に存在しています。亜鉛は消化管からの吸収、皮膚からの浸透吸収、吸気からの吸収の3つの経路により体内に取り込まれます。また体から出ていく経路としては多くは排便から、そのほかにも汗や尿から体外に排出される経路もあります。失われた亜鉛を補充、補填するには、適切な食事摂取と適切な腸管からの吸収のほかに、腎臓での再吸収も重要です。亜鉛は体内において血漿中のアルブミン、マクログロブリン、トランスフェリンといった蛋白質と結合して各臓器に運ばれます。血漿中の亜鉛は体内の0.1%未満にすぎず、採血での亜鉛血中濃度測定は性別、日内変動、摂食量、内服薬、妊娠、炎症性変化により影響を受けることも知っておく必要があります。

 

WHOは亜鉛欠乏を世界的な問題点として考えており、CKD患者さんにおける亜鉛欠乏は比較的周知されはじめている一方で、菜食主義者、高齢者、糖尿病の方、利尿薬を服用中の方、炎症性疾患の方、消化器病の患者さんにおいても亜鉛欠乏を来しやすくなっていることに言及しています。

 

長くなってしまうので、今回はここまでとさせていただき、次回は腎臓でのより細かな亜鉛と亜鉛欠乏についてお話していきます。