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BLOG第20回 腹膜透析(PD)が日本で普及しない理由①

2020.07.20

腹膜透析(PD)が日本で普及しない理由①

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、こんにちは、院長です。

 

皆さんは3%という割合を聞くと、どう考えますか?
たとえば、学校のひとクラスの人数が40人程度だとすると、3%という割合は、そのうちの1人もしくは2人となります。これは少ない割合であると思われるのではないでしょうか。

 

この割合はわが国の全透析患者さんにおける、腹膜透析を施行されている方の割合です。2018年の日本透析医学会の統計調査によると、全透析患者さんの数は約34万人であり、そのうち腹膜透析をされている患者さんは約1万人と報告されており、その割合は約3%となります。

(参考元:我が国の慢性透析療法の現状(2018年12月31日現在)https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2018/pdf/2018all.pdf

 

では、この割合は他国と比べるとどのようになっているのでしょうか。2014年の米国のデータベースを用いた統計報告では、腹膜透析患者さんの割合は香港で約70%と最も多く、欧州やカナダでは約20-30%、米国で約10%となっており、日本の3%という割合は世界で最も低い数値となっています。この割合、何パーセントが正解であるとか、何パーセントであるべきだという議論に正解も無く、各国の医療提供の制度の相違などもありますが、腎臓専門医のアンケートをまとめた複数の英文誌では30%前後が妥当な割合なのではないかと紹介されています。少なくとも、血液透析と比較して、遜色のない治療法であるという認識は間違いなさそうです。

 

腹膜透析と血液透析を比べると、腹膜透析はご自身もしくはご家族による手技や消毒が必要である一方、通院回数が少なく済むことや身体的負担が少ないことなど、いくつかのメリットとデメリットが挙げられます。
(詳細はこちらをご参照ください 当院HP:腹膜透析について

 

それでは、血液透析と比べて遜色のないとされる透析療法であり、いくつかの利点もある中で、なぜわが国では腹膜透析を選択される患者さんの割合が世界で一番少ないのでしょうか。

 

いくつか理由は挙げられますが、次の主たる3つの理由について説明させていただこうと思います。

  1. 血液透析の施設が多く、通院先の選択肢が多い一方で、腹膜透析を実施できる医療機関、医療スタッフが限られている。
  2. 糖尿病性腎症(糖尿病に合併した慢性腎不全)の患者さんには不向きと考えられる。
  3. ご高齢の方の導入に抵抗感がある。

2、3に関しては次回以降のブログでご紹介していきます。

今回は1の理由についてお話しします。

 

1.血液透析の施設が多く、通院先の選択肢が多い一方で、腹膜透析を実施できる医療機関、医療スタッフが限られている。

現在、当院が位置する相模原市および隣接する町田市、大和市、座間市で相模原市に近い地域を含めたエリアでは、血液透析患者さんの数はおよそ3000名、そして腹膜透析患者さんの数はおよそ40-50名となっています。これは単純に計算しても1.5-2.0%となり、全国平均より少ない割合となっています。このように当院が位置する相模原市、そして隣接する町田市、大和市、そして座間市や海老名市を含めても血液透析の患者さんの数に比べて腹膜透析の患者さんの数は多くありません。これは血液透析を提供する施設が充実していることが考えられる一方で、腹膜透析を提供できる医療機関が限られていることも表している可能性があります。

繰り返しになりますが、血液透析、腹膜透析のどちらが優れているということは決してありません。しかし、少なくとも腎不全が進行した際には血液透析、腹膜透析について十分な説明を受けたうえで、治療法を決定することが望まれるのではないかと考えます。当院では腎不全治療法の選択外来(腎代替療法選択外来)を設置しており、患者様とそのご家族を含めて十分な説明をしたうえで、私たちと共に、納得していただける治療法の選択をしていく過程を大事にしております。なぜならこの過程が、そのあとの患者様の生活の質を改善できるからです。

 

当院では血液透析はもちろんですが、腹膜透析に関しても症例数を蓄積しており、医師、看護師を含めたチームとして、自信をもって提供できる体制を整えております。現在当院で腹膜透析を行っている患者様は約15-20名にのぼり、皆様は納得されて腹膜透析を始められており、腹膜炎等の合併症も少なく充実した日々を過ごされているようです。相模原市のみならず、町田市、大和市、座間市からも通われています。

 

腹膜透析についてご興味のある方は、いつでもご相談をお待ちしております。