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BLOG第97回 睡眠時無呼吸症候群について ~①病態~

2021.10.14

睡眠時無呼吸症候群について ~①病態~

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

皆さん、良い睡眠はとれていますか?

 

以前のブログ“睡眠とCKD(慢性腎臓病)の関係”でもご紹介したように、睡眠をしっかりととることは腎臓病への影響も含め、身体の機能を維持するためにはとても大切であることに、異論の余地はないかと思います。

 

さて、本日は睡眠の質の低下の原因のひとつとなる「睡眠時無呼吸症候群」についてのお話です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)とは、寝ている間に呼吸が止まってしまうことが起こる疾患です。このSASは、CKDの患者さんや透析患者さんに関連が深く、さらに高血圧をはじめとする様々な合併症を引き起こす可能性があるため、SASを正しく理解して適切な治療を受ける必要があります。当院で通院加療されているCKDの方や透析を受けられている方、また糖尿病や高血圧などの生活習慣病の方にとっても大いに関係する病態であるため、今回から3回に分けてSASについて紹介していきます。初回にあたる今回は、SASの病態に関するお話です。

 

・SASは3種類に分類される

SASは日中の眠気などの特徴的な症状とともに睡眠中に無呼吸または低呼吸が1時間あたり5回以上起きている状態を指します (1)。また、発症する原因の違いによってSASは以下の3種類に分類されます (2)。

閉塞性SAS:咽頭部の狭窄や閉塞が原因で呼吸をしようとしてもできない状態

中枢性SAS:心不全などの疾患が原因で中枢(脳)から呼吸を促す信号が一時的に送られてこない状態

混合型SAS:閉塞性SASに中枢性SASが混ざっている状態

上記3種類のうち最も患者数が多いのは閉塞性SASです。

 

・SASの症状

基本的なSASの症状は睡眠障害による日中の眠気・疲労感・集中力低下や低酸素血症による血圧上昇や起床時の頭痛などです (3, 4)。睡眠時におけるSASの一般的な症状として認識されている“いびき”は閉塞性SASで起こる特徴的な症状で、家族からいびきを指摘されて病院へ行くとSASと診断されたということがしばしばあります。

 

・SASになりやすい人の特徴

SASは女性より男性が発症しやすい傾向があります (5)。また、閉塞性SASになりやすい人の特徴は肥満、アデノイド・扁桃肥大、あごが小さい、舌が大きいなどです。これらの特徴を持つ人は咽頭部の空気の通り道が狭くなることや塞がれてしまうことでSASが発症します。

 

・慢性腎臓病がSASを招くおそれがある

慢性腎臓病の合併症のひとつにSASがあり、その直接の原因は「むくみ」です。先ほど肥満はSASの原因と紹介しましたが、これは気道周辺に脂肪がついてしまい空気の通り道である内腔が狭くなることでSASを発症します。慢性腎臓病の場合は脂肪ではなく、日中は下半身に溜まっていた体内の水分が、寝ている間に気道周辺まで移動して内腔を狭めてしまうことで無呼吸もしくは低呼吸状態に陥ります。また、それとは逆にSASによる睡眠障害がCKDの進行リスクとなりうる可能性もあります。

 

・合併症や日常生活への支障

SASは「いびきや眠気が生じる疾患」という認識をしている方が多いかもしれませんが、さまざまな合併症を引き起こす可能性があり、適切な検査と治療介入が必要となります。例えば、SASを発症している方は高血圧、心血管疾患、2型糖尿病を発症するリスクが健常人に比べて2~4倍程度高くなることが報告されているため、重大な病気につながる可能性があり放置することは危険です (6, 7)。また、日中に起こる突然の眠気が仕事の量や質の低下や、交通事故の原因となる可能性もあり、日常生活へ支障をきたすおそれがあります。

 

ここまで、SASの病態について説明をしてきました。SASは単なる「ひどいいびきが出る病気」ではないため、放置せずに検査を受けて、必要であれば治療を行い、症状を改善していくことが大切です。

 

次回はSASの適切な治療を受けるために欠かすことができない検査方法について紹介します。

 

 

【参考資料】

(1) 睡眠時無呼吸症候群|一般社団法人日本呼吸器学会

(2) C. Guilleminault et al., The sleep apnea syndromes. Annu. Rev. Med., 27: 465-84 (1976).

(3) 睡眠時無呼吸症候群 – MSDマニュアル プロフェッショナル版

(4) Sleep Apnea | NHLBI, NIH

(5) T. Matsumoto et al., Prevalence of sleep disturbances: Sleep disordered breathing, short sleep duration, and non-restorative sleep. Respir. Investig., 57(3): 227-237 (2019).

(6) I. Muraki et al., Sleep apnea and type 2 diabetes, J. Diabetes. Investig., 9(5): 991-997 (2018).

(7) 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン