お知らせ一覧

BLOG第153回 高齢化社会における在宅での腹膜透析の課題①

2022.11.07

高齢化社会における在宅での腹膜透析の課題①

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

今回は、高齢化社会における在宅や施設での腹膜透析の課題についてお話します。

 

以前のブログ(第22回Blog)でご紹介したように、日本において、腹膜透析をされている高齢者の方々の割合は、高齢でない方々に比べて多くありません(一方で当院では全年齢層がほぼ同等の割合です)。実際に、本邦の全透析患者のうち70歳以上の割合は47.9%である一方、腹膜透析患者のうち70歳以上の割合は約21.5%となっています(日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の現況 http://docs.jsdt.or.jp/overview/)

 

ご高齢の方にとっての腹膜透析は、通院回数が月1回程度であり自宅で穏やかに過ごす時間が確保できることや、循環動態にかかる負担、すなわち身体にかかる負担が少ないことなどから、多くの利点もあります(こちらをご参照ください 当院HP:腹膜透析について)が、腹膜透析の利点を大きく享受しうる高齢者への普及率は決して高くないのが実情です。

 

高齢者に腹膜透析が普及しない理由として、ひとつには腹膜透析の手技習得がご高齢の方にとって難しいと考えられ、医療者がはじめからご高齢の方に腹膜透析を導入することを敬遠しがちであることなどが考えられます。また、ご自身で透析の手技が難しい場合にはご家族による介助が必要になりますが、ご家族による介助が難しいケースにおいて、日本ではご家族以外のサポートを受けにくい現状があります。実際に日本においては、高齢の腹膜透析患者さんのうち約10%がその手技を介助者に頼っており、その内訳としてご家族による介助が80%,看護師の介助が15%という報告があります(日ノ下 文彦ら. 透析会誌 50:139-146, 2017)。他国に目を向けると、欧州では86%が看護師による介助で家族の介助は14%と日本とは逆の割合になっています(Verger C, et al. Perit Dial Int 35:663-6, 2015)

 

高齢者にとってメリットの多い腹膜透析をご自身で行うことが難しい場合において、対応策としては、まず入院による看護師の介助による方法が挙げられます。実際に当院ではご自身での手技が難しくなり、ご家族による介助を受けることが難しい方々に対して、長期入院が可能な療養型病床という機能のもつ病床で腹膜透析に対応しております。一方で、可能であれば在宅で継続して腹膜透析を行うことが望まれるケースも多くあります。このような際にはAssisted PD(介助による腹膜透析)と呼ばれる、在宅もしくは老人ホームなどの施設において医療技師、看護師、ご家族、またはパートナーの支援により実施される腹膜透析の概念があります。

 

このAssisted PDについて、次回のブログで詳しくお話していこうと思います。