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BLOG第154回 高齢化社会における在宅での腹膜透析の課題②

2022.11.14

高齢化社会における在宅での腹膜透析の課題②

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

今回は前回に続いて、高齢化社会における在宅での腹膜透析の課題についての続きをお話します。

 

前回のブログで、高齢化社会に対応する腹膜透析を提供する手段として、在宅もしくは施設で行うAssisted PD(介助による腹膜透析)について触れました。ここではその詳細をお話しします。

 

このAssisted PDの治療成績は通院血液透析とほぼ同等であること(Duquennoy S, et al. Perit Dial Int 36:291-6, 2016)、Assisted PDの患者はご高齢の自己管理されている腹膜透析患者と比べると治療継続は同等であること(Povlsen JV, et al. Perit Dial Int 28:461–7, 2008)が報告されています。その一方でAssisted PDの患者生存率および腹膜炎の無発症生存率が、ご高齢の自己管理されている腹膜透析患者に比べると劣っていることも報告されています(Verger C, et al. Kidney Int 103:S12–20, 2006Verger C, et al. Nephrol Dial Transplant 22:1218–23, 2007)。

 

Assisted PDの治療成績は他の透析療法と比較すると、決して優れているわけではないことがいくつかの報告からわかります。しかし、ご高齢の患者さんにおいては、生命予後だけに焦点を絞るよりも、治療の負担軽減、QOL維持、日常生活の快適さ、自宅で過ごす時間を増やすことなど、“その方らしい生活を目指す“という観点では、Assisted PDはその一助となりうると考えられます。

 

このAssisted PDを実行していくためには、病院やその他の医療機関、訪問看護師、介護福祉士などが連携をとり、腹膜透析を行うにあたり支援が必要な患者さんを地域で支えることが必要となります。しかし我が国の現状では誰しもが介助することが許されてはいません。以下の通り、今のところ日本においては、腹膜透析液の交換、自動透析液交換装置のセッティング、カテーテル出口部ケアなどの介助はご家族と看護師にのみ認められており、介護福祉士などそれ以外の職種には認められていません。Assisted PDの一環として在宅で利用できるサービスは、現状では訪問看護に限られていて決して十分ではないという実情です。

 

PDにおける看護・介護表務の違い

TERUMO:「PDにおける看護・介護表務の違い」2012

 

また、介助の頼りである訪問看護においても、訪問看護ステーションで腹膜透析患者さんを受け入れることが可能な施設は30%に満たず、また受け入れ可能とされる施設においても実際に受け入れが難しかった施設が10%存在したというデータもあります(鈴木康弘. 透析フロンティア 29:14-7, 2019)。さらには、訪問看護を利用するにあたり考慮しなくてはならない制度として、介護保険と医療保険があります。介護保険では上限額が障壁となりAssisted PDは困難となりますが、医療保険を利用すれば不可能ではありません。ただし、医療保険を使用すると介護保険は使用できず、介護士を使えないために腹膜透析以外の生活支援が受けられず、ご家族の負担が増える可能性があり、在宅の訪問看護を利用した腹膜透析が浸透しにくい状況になっています。

 

看護師のみならず、訪問介護士など看護師以外の職種に対して腹膜透析の介助の許容範囲を拡大する必要があることや、医療保険と介護保険の一体化運用の調整が必要であることなど、Assisted PDの普及に対しては課題が多いことは事実です。しかし、在宅や施設での介助による腹膜透析は、今後も進む透析人口の高齢化において、十分にメリットのある選択肢のひとつとして整備する価値があるものと考えます。実際に当院においても、相模原、町田、大和市の地域にお住いで、ご家族や訪問看護の介助により、安定した腹膜透析を行いながらご自宅で生活されているご高齢の腎不全の患者様を診療しております。月一回の定期外来での元気なお姿を拝見することで、こちらも元気をいただくこともあります。私自身も、当院としても、これからの超高齢化社会に対応しながら、患者さんが“その方らしい生活“を送れるよう、できる限り対応していきたいと思います。