シャント閉塞を予防する可能性がある薬について
森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。
現在、我が家では、冬や春に採取してきた生き物たちが、順次夏に向けて成長を遂げています。ヤゴがトンボになり、カブトムシやクワガタの幼虫も蛹を経て成虫となり活動を始めています。
さて、今回は血液透析患者さんのシャントや人工血管(グラフト)など“バスキュラーアクセス”の血栓閉塞を予防する可能性のある薬についてのお話です。冒頭に述べておきますが、この薬は日本でも血栓予防としては広く使われていますが、まだ透析患者さんにおいては適応とはならない薬であることをご承知ください。
A randomized controlled trial evaluated the efficacy and safety of apixaban for prevention of recurrent thrombosis after thrombectomy of hemodialysis vascular access
Kidney Int. 2025 Feb; 107(2):348-358
まず、この研究でバスキュラーアクセスの血栓予防に服用されているアピキサバンについて簡単に説明します。
出血したときなどに血液が凝固する過程において、Xaという因子は重要な役割を果たしており、プロトロンビンをトロンビンに変換することでフィブリンの生成を促進します。アピキサバンはこのXa因子を阻害することでトロンビンの生成を減少させ、フィブリンが形成されにくくなり、血液が固まること、すなわち血栓の形成を防ぎます。
冒頭でも述べた通り、日本では腎機能障害例での薬剤蓄積を理由に治験の段階で除外されていたためデータが不十分であり、高度腎機能障害例や透析患者さんには適応となっておりません。しかし、アピキサバンは主に肝臓で代謝され、未変化体の尿中排泄率は27%と報告されており、DOACと呼ばれるアピキサバンが属する血栓を予防するグループの薬のなかでは最も尿中排泄率が低く、腎機能障害時にも投与しやすい可能性のある薬剤であると考えられています。日本における透析患者さんにおける適応はまだありませんが、海外ではいくつかの地域で適応となっており、アメリカでは透析症例における同薬剤投与が健常人と比較してAUC(体内に取り込まれた薬の量を示す指標) が36%上昇したものの、最大血中濃度は上昇しなかったことに基づいて、2014年に透析患者におけるアピキサバンの使用が認められています。
バスキュラーアクセスの血栓症は血液透析患者さんにおいてしばしば経験される合併症であり、人工血管(グラフト)や内シャントの閉塞、透析効率の低下、および患者さんの予後不良につながることがあります。この論文の試験では、アピキサバンのバスキュラーアクセスの血栓予防としての有用性を調査しています。
具体的には、バスキュラーアクセスが血栓閉塞し治療として血栓除去が行われた後の再発性血栓症を予防するためのアピキサバンの有効性と安全性が評価されています。血管内血栓除去術後48時間以内にアピキサバン内服開始またはプラセボ薬内服開始の2つの群に割り当てられました。3ヶ月後、再発性アクセス血栓症の発生率はアピキサバンを服用していた群でプラセボ(服用していなかった)群と比較して有意に低い結果となりました。また、血栓を防ぐということは、合併症としては出血のリスクがあります。しかしこの研究では重篤な出血の合併症発生率は両グループで有意な違いはありませんでした(一方で軽度の出血イベントはアピキサバン群でより頻繁に見られました)。
これらの結果から、アピキサバンが血液透析患者における血栓切除後の血栓再発を効果的に減少させることが示唆されました。アピキサバンを使用することで、血栓の形成を防ぎ、シャントの通過性を維持する効果があることが考えられ、これにより、透析の効率が向上し、患者のQOL(生活の質)も改善される可能性があります。
ただし、繰り返しになりますが、日本ではまだ適応となっておらず、また適応となったとしてもアピキサバンの使用には出血リスクも伴うため、適切な患者選定や用量調整が重要と思われます。今後のさらなる研究で、長期的な安全性、効果の持続性、全体的な生存への影響を評価する必要があります。
現在のところ、日々の血液透析患者さんのバスキュラーアクセスの管理でこの薬は使えませんが、血圧の推移や浮腫やレントゲン結果をみながら適切な体液量を保つ、エコーで定期的に状態を観察する、針を刺す位置を考える、血管を過度に圧迫することや血流を途絶えるようなことを避ける、ことなど日々の管理で血栓閉塞を予防することは可能です。
当院では、私をはじめとして実際に透析室で血液透析管理を行うスタッフがバスキュラーアクセスの手術治療や日々の管理を行い、中長期的に安定してバスキュラーアクセスが使用継続できるような透析医療を心がけております。引き続き血液透析患者さんが出来るだけ安定した生活をおくることが出来るように努めてまいります。






