遠隔で腹膜透析の治療状況が患者さんと病院で共有できる新しい仕組み
森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆さま、
こんにちは、院長です。
以前にも書いた気がしますが、厚着しなくてはならない寒い冬より、やはり半袖で過ごし、生き物に多く出会える夏が好きです。驚くことに、夏に捕まえた我が家のノコギリクワガタは、まだゼリーを食べながら元気に過ごしています。
前回のブログでは、新しい腹膜透析液に関する研究をご紹介しましたが、腹膜透析の管理という観点で、他にも臨床に役立つ可能性をもつ研究が次々に報告されています。今回は、患者さんがご自宅で行う腹膜透析を“より安全で安心なもの”にするための新たな取り組みとして、腹膜透析+遠隔モニタリング(Remote Monitoring) に関する大規模試験をご紹介します。
腹膜透析には大きく分けて2種類あり、日中に患者さんご自身のタイミングで腹膜透析液のバッグ交換を行うCAPDと呼ばれるパターンと、夜間に機械を用いて自動でバッグ交換を行うAPD(自動腹膜透析)と呼ばれるパターンがあります。どちらが正解かについての答えは無く、患者さんのスタイルに合わせて決めるという選択になりますが、今回の研究の対象となっているのはAPDであり、APDは一般的に日中の時間を自由に使えるという利点があります。一方で、ご自宅での治療となるため(CAPDもそうですが)、「異常があっても気づきにくい」「体液バランスが崩れても早期対応が難しい」といった不安の声が一定数あることも事実です。とくに腹膜透析を継続するうえで重要なのは体液管理であり、これらがうまくいかないと体液過多、心不全を発症し、結果として入院が必要となることや、治療内容の見直しが必要になることがあります。
今回の研究は、その課題に対して“医療者が患者さんの透析状況を遠隔で見守る”ことが、本当に安全性向上につながるのかを評価したものです。
Remote monitoring of automated peritoneal dialysis reduces mortality, adverse events and hospitalizations: a cluster-randomized controlled trialNephrol Dial Transplant. 2025;40(3):588-597
遠隔モニタリング付き APD(遠隔APD) では、透析装置から送られてくる情報(排液量、治療の完遂状況、体液バランスの指標など)が、医療スタッフにリアルタイムで共有されます。これにより、異常があった際に早期に気づき、必要に応じて設定変更や受診の調整が可能となる、いわば「見守り付きの在宅透析」です。
この研究では、APD を導入している 21 の医療機関が参加し、従来の APD(398名)、遠隔APD(403名)の2群に、対象となる患者さんが無作為に割り付けられ、入院件数や死亡者数、体液過多、心血管疾患などの合併について、結果に差があるか検証されました。
研究の結果、遠隔APD を利用した患者さんでは注目すべき改善がみられました。
まず、死亡者数は従来APD群で55名、遠隔APD群で33名と有意に減少しました。さらに、心疾患や体液過剰、透析不足に関連した入院や、有害事象についても 遠隔APD 群で明らかに少ないことが示されました。これは、遠隔モニタリングが腹膜透析管理における問題の早期発見に寄与し、重大なイベントに発展する前に介入することが可能であったためと考えられます。
一方で、カテーテル機能不全などの機械的トラブルが 遠隔APD 群で従来APD群よりも多く検出されました。しかし、これは「異常をより早く見つけられた」ことの裏返しとも推測ができ、結果的に患者さんの安全性や腹膜透析治療の継続性の向上につながる可能性がある、とも言えます。
腹膜透析における体液管理は、日々の生活の質に直結します。むくみ、急な体重変化、息苦しさなどの症状は、透析の効率低下や体液過剰状態(除水不足)のサインであり、これらを早期に察知することは極めて重要です。今回の研究は、遠隔モニタリングがこうした“気づきにくい変化”を日々の治療結果の数値で捉え、医療機関とタイムリーに共有できることで、治療の継続性と安全性を高める可能性を示してくれました。
もちろん、この技術は通信環境やデータ管理体制、スタッフの運用体制などの準備が必要です。また、今回の追跡期間は約9か月と比較的短く、長期的な効果と安全性については今後のさらなる検証が必要です。しかし、在宅透析に“医療チームの目が届く”という新しい選択肢が生まれたことは、臨床に携わる私たちにとって非常に大きな意義があると言えます。
当院では、すでにCAPD/APDどちらも含めた遠隔管理システムを採用し、日々の腹膜透析患者さんの診療に活用し、重大な合併症を未然に防げるようにしております。また、この遠隔管理を医師・看護師のみならず、機械に強い臨床工学技士も交えて、チームとして透析治療の水準をあげるべく取り組んでおります。今回の結果でも示されましたが、遠隔モニタリングの技術は、より安心して自宅で治療を続けられるツールであると考えています。
これからも当院は新たな医療技術を積極的に取り入れながら、患者さんが「安心して続けられる腹膜透析」を実現できるよう努めてまいります。






