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BLOG第410回 透析患者さんは少し太り気味のほうがいい?

2026.03.23

透析患者さんは少し太り気味のほうがいい?

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆さま、
こんにちは、院長です。

 

先日、家族でかまくらを作りに行きました。たくさんの雪に囲まれ始めは寒さを感じましたが、思った以上にかまくら作りは大変であり、体力と知力をフルに使い、最後は汗をかきながらひたすらに雪を掘っていました。完成したかまくらの中で飲んだココアは至福の味でした。そして思っていたとおり、二日後に筋肉痛もやってきました。

 

これまでの当院のブログでは透析の長期化や高齢化に伴う合併症であるサルコペニアやフレイルという体重減少や身体活動力の低下による身体の脆弱性のお話をしてきました。ここでひとつの疑問が生まれます。透析をされている患者さんは太っていたほうがいいのでしょうか。一般的には、肥満は心臓病や糖尿病の原因になるとされ、健康に良くないというイメージを持たれている方が多いと思います。しかし、透析患者さんに限っては、「少し体重が多い方が予後が良い」とされる報告があり、「肥満パラドックス」と呼ばれます。

 

今回は、この「肥満パラドックス」について、これまでとは少し違った新しい視点を提示した昨年の論文の内容をご紹介します。
Novel Hypothesis for the “Obesity Paradox” in ESKD Subjects on Dialysis
Clinical Journal of the American Society of Nephrology(CJASN). 2025; 1–3

 

これまで、透析患者さんでは痩せ気味の方よりもやや体重過多の方が比較的予後が良いことがいくつかの研究から報告されています。その理由として、体に蓄えられた脂肪や筋肉が、慢性的な病気によるエネルギー消耗を補っていること、低栄養や体重減少を防いでいること、透析中の血圧低下が起こりにくいことなどが考えられてきました。ただし、肥満が健康に良いという考え方には賛否があり、すべての専門家が一致した見解を持っているわけではありません。ただし、適度に身体を動かし、バランスの良い食事をとり、体重を安定して保つことが大切であるという点については、多くの専門家の間で共通した考え方です。

 

この論文で新しく注目されたポイントは、「マイクロプラスチック/ナノプラスチック」という、私たちの身の回りに存在する非常に小さなプラスチック粒子です。マイクロプラスチックは、空気中や食品容器、衣類、日用品などから体内に取り込まれ、これまでの研究で腎臓や脳、心臓などさまざまな臓器に蓄積することが分かってきています。透析患者さんでは、腎臓の働きが低下しているため、体に入った有害物質を十分に尿から排出できないという問題があり、さらに透析治療そのものによって、透析回路やチューブなどを通じて、微量ながらマイクロプラスチックにさらされる可能性も指摘されています。そのため、透析患者さんは一般の方よりも、体内にマイクロプラスチックがたまりやすい状況にあると考えられています。

 

この論文では、脂肪組織がこうしたマイクロプラスチックを一時的に「ため込む場所」として働く可能性がある、という仮説が提示されています。脂肪は、油になじみやすい性質を持つ物質を蓄えやすく、マイクロプラスチックもそのような性質を持つと考えられています。その結果、脂肪が多い人では、マイクロプラスチックが重要な臓器に直接たまるのを防ぎ、体への悪影響を和らげている可能性がある、という考え方です。

 

一方で、この論文では「体重減少」についても注意を促しています。体重を減らすと脂肪細胞が小さくなり、そこに蓄えられていた物質が血液中に放出される可能性があります。もし脂肪にマイクロプラスチックが蓄えられていた場合、急激な体重減少によって、それらが再び体内を巡り、心臓や脳などの臓器に影響を及ぼす可能性も理論的には考えられます。ただし、これはあくまで仮説であり、現時点で人において明確に証明されたものではありません。

 

この論文を通じて大切なのは、「太っている方が良い」「痩せるべきではない」と単純に結論づけることではありません。むしろ、透析患者さんにおける体重や栄養状態の管理は、一般的な健康常識とは異なる側面があり、一人ひとりの状態に応じて慎重に考える必要があります。

 

当院では、体重や見た目だけで評価するのではなく、栄養状態や筋肉量、体力、透析中の血圧変動、日常生活の様子(例えば労働内容の変化や運動習慣の変化)などを総合的に見ながら、体重管理や栄養指導を行っています。体重を減らしたほうが良いのか迷っている方、食事や体型について不安を感じている方は、どうぞ一人で悩まずにご相談ください。

 

当院は相模原市に位置していますが、町田市や大和市にも隣接し送迎対応可能なエリアも拡充しており、近隣を含めた地域の患者様に腎臓病、透析医療を提供しております。最新の知見を踏まえながら、その方に合った最善の方法を一緒に考えていきたいと思います。