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BLOG第84回 塩分と高血圧、塩分と慢性腎臓病(CKD)の関係②

2021.04.19

塩分と高血圧、塩分と慢性腎臓病(CKD)の関係②
~塩分をどのぐらい摂取していますか?~

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

前回に引き続き、塩分摂取のお話です。
前回記事 塩分と高血圧、塩分と慢性腎臓病(CKD)の関係①

 

今回は一日当たりどのくらいの塩分を摂取しているかを測る検査について説明します。

 

塩分をどれくらいとっているかは、尿検査で調べることが出来ます。これは、食事によって摂取したナトリウムは、その95%以上が腎臓から尿として排出されるため、尿中のナトリウム量を測定する事で塩分摂取量が把握できるという仕組みです。そのため、正確に塩分摂取量を把握する方法として「24時間畜尿(ちくにょう)」が行われています。24時間畜尿とは、ある時刻から翌日の同じ時刻までの24時間で排泄された全ての尿をためて検査に提出する方法です。この畜尿方法は正確な排泄量が把握できる一方で、検査自体が簡易的ではなく、なかなか外来で実施することが難しい場合があります。そこで、簡易的に測定する方法として随時尿(早朝尿以外に単発で採取する尿)を用いた計算式の利用が推奨されており、当院でも“一日推定塩分摂取量”として算出しております。もちろん24時間畜尿に比べると信頼度は劣りますが、外来通院時の尿検査で測定することが可能です。

 

そこで、一日推定塩分摂取量の算出方法について説明いたします。
ここでは当院でも採用されている田中法(1)という計算方法を用いて紹介します。

・24時間尿Na排泄量(g/日)
=21.98×〔随時尿Na(mEq/L)/随時尿Cr(mg/dL)/10×24時間尿Cr排泄量予測値*〕^0.392

・推定1日食塩摂取量(g/日)
=24時間尿Na排泄量(mEq/L)/17

*24時間尿Cr排泄量予測値(mg/日)
=体重(kg)×14.89+身長(cm)×16.14-年齢×2.04-2244.45

 

少し複雑な計算式になっておりますが、つまるところ、来院時の尿中ナトリウム濃度、尿中クレアチニン濃度、身長、体重、年齢の情報があれば1日当たりの推定の塩分摂取量が計算出来るのです。随時尿を用いた推定塩分摂取量の算出は、高血圧やCKD(慢性腎臓病)のガイドラインでも推奨されており、ともに上記の田中の式が使用されています(2,3)。

 

この検査をするにあたり、外来でご質問をいただくことがあります。その中のいくつかをQ&A形式で紹介します。

Q1.検査結果は何日前の食事の影響を受けますか?

A.検査結果はおおよそ検査前日を中心に検査前数日に摂取した食事の推定塩分摂取量が反映されると考えられています。当日の水分摂取量にも影響を受けるとも可能性もありますので、検査を受ける際は「いつも通り」を心がけることをおすすめします。

 

Q2.検査前の数日間に食生活を変更すると、検査結果に影響がでますか?

A.極端に変更すると影響します。たとえば、正常の人に生理食塩水を点滴する(すなわち塩分を多く摂取する)と、塩分の排出量が増えます。そのほかに食事中の蛋白質の摂取量が増えると直後の尿中クレアチニン量が増える可能性があり、極端な食事の変更は検査結果に影響を与える可能性があります。また、尿中クレアチニン濃度は食事だけでなく、激しい運動後や発汗後に増加することが予想されます。

 

Q3.利尿剤など服用していますが、数値に影響するのでしょうか?

A.用法を守って服用すれば影響は大きくないと考えられます。一般的に利尿剤は、腎臓でろ過され尿中に排泄されたナトリウムを再び体内に取り戻す働き(再吸収)を阻害し、ナトリウムを体外へ排出することで利尿を得る(尿量を増やす)働きがあります。そのため、初めて利尿剤を飲んだ場合、尿中ナトリウム濃度が上昇し、推定塩分摂取量が高くなる可能性があります。しかし、1週間程度経過するとナトリウムのバランスが安定することが推測されており、普段通り服用して検査を受けることが望ましいと考えられます。

 

1日の塩分摂取量は高血圧や腎臓への負担を未然に防ぐ、または悪化を防ぐために重要な情報であり、随時尿を用いた簡便な検査が外来通院で行うことができます。気になる方はぜひ、尿検査を行い確認してみましょう。

 

参考:

(1) Tanaka T, Okumura T, et al. A simple method to estimate populational 24-h urinary sodium and potassium excretion using a casual urine specimen. J Hum Hypertens. 2002; 16: 97-103.

(2) Satoshi Umemura, Hisatomi Arima, et al. The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the Management of Hypertension (JSH 2019). Hypertension Research. 2019; 42: 1235–1481

(3) エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018