高齢者における腹膜透析診療のポイント②
森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。
今回は前回ブログの続きで、ご高齢の方における腹膜透析の診療するポイントについてお話します。
高齢腹膜透析患者さんの診療ポイント
- 残存腎機能の保護
これはご高齢の方に限ったことではありませんが、透析開始となったあとも腎機能を維持することが、生命予後やバッグ交換を増やさずに負担を軽減することなどから重要です。基本的には適正な体液量の維持と、腎臓に悪影響となる薬や過度な降圧を防ぐことで腎機能の維持を目指します。
- 腹膜透析関連腹膜炎を予防
こちらも高齢者に限定されるものでもありませんが、やはり腹膜炎を出来るだけ予防することは大切です。とくにご高齢の方においては、身体機能や認知機能が経過とともに変化する可能性があり、いままで出来ていた手技が出来なくなってくることがあります。このため当院では、定期的にバッグ交換や消毒方法の手技などを確認し、治療状態を確認しながら安全に腹膜透析が行うことができ、腹膜炎を出来るだけ予防できるように心がけています。
- 体液量を適正にする
体液量が過剰になると、むくみや血圧上昇、心負荷を来しやすく入院率の上昇や生命予後に関与します。このため、体液量を適正に維持することが求められますが、最も重要なポイントのひとつとして減塩が挙げられます。塩分摂取が増えることでのどが渇き、水分を多くとり、体液が過剰となりやすくなるためにこの減塩が重要なのです。とくにご高齢の方は味覚の感受性が低下しやすいことで、塩分を多く使用してしまう傾向にあるようです。このため、なるべく加工食品を避けることや外食やテイクアウト食品の過剰塩分を回避することが望ましいと思われます。当院では定期的に管理栄養士による指導を行い、塩分摂取の状況を確認・共有し、減塩の方法や工夫についてお伝えしています。
- 低栄養を防ぐ
食欲の低下や、活動度の低下などから経口摂取量が減少し低栄養となってしまうことを防ぎます。このためには適切なカロリーや栄養素を摂ることが大事であり、検査結果や問診などから栄養状態を評価しつつ、管理を行います。ときには、栄養補助食品やミネラルを考慮した処方などを行い、患者さんにとって適切な必要なカロリーや栄養素が体内に取り込めるように対応しています。
- 身体機能、認知機能を維持して、生活レベルを維持する
当たり前かもしれませんが、身体機能を維持しつつ、転倒リスクを軽減することは高齢者にとって重要となります。お仲間での運動や、家庭でのエクササイズを促進し、社会での機能を維持しつつ、身体機能と認知機能を維持することを目指していきます。ただし、いくら努力や支援を行っても身体、認知機能の低下は必ず回避できるものではないため、腹膜透析を患者さんご自身で行い続けることが出来るか、サポートが必要な状況になりつつあるのか、など状況を確認しながら治療を遂行することが大切です。
最後に、この内容も論文に触れられていましたが、個人的にも重要視しているポイントがあります。それは、生命予後を延長させることも大切ではあるものの、ご高齢の腹膜患者さんにとって重要なことは、生活の質を維持しながら、できれば家庭や社会での役割を継続し、そのために症状を軽減させ治療の負担を減らすことです。これを実現するためには、患者さん個々の状態や背景に応じた治療内容を患者さんやご家族と相談しながら、身体機能や認知機能の変化に合わせて調整していくことが必要となります。
引き続き、よき生活の質を保てるような腹膜透析の治療を行っていきます。