新しいリンを管理する薬について②
森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。
前回のブログでリンについて、そして血清リン値を下げるための薬として従来のリン吸着薬についてご説明しました。
新しいリンを管理する薬について①
今回は前回のリンについての薬の話の続きとして、新しい高リン血症治療薬のお話をします。
新しく登場したリンを管理する薬剤がテナパノル(商品名:フォゼベル)という高リン血症治療薬です。
このテナパノルは従来の腸管でリンを吸着し便と共に排泄するタイプの薬剤とは異なり、
腸管からのリンの吸収を抑制する薬剤です。
少し細かい話になりますが、リンが腸管から吸収される経路のひとつに、
腸管の細胞と細胞の間を抜けて血中に入る経路があり、
おそらくこれは濃度勾配により吸収される経路で、
この経路にNHE3というナトリウムと水素イオンの交換輸送体が
関与していることが想定されています。
このNHE3を阻害することで、腸管細胞内の水素イオン濃度が上昇しPHが低下し、
細胞間のリンを通る動きをブロックし、腸管からのリン吸収を「阻害」するというのがテナパノルの作用機序です。
簡潔にお伝えすると、腸管からリンが吸収されて体内に入ることを防ぐ薬です。
一方で、このナトリウムと水素イオンの輸送体をブロックする作用機序の特性上、
腸管からのナトリウムイオンの吸収が抑制されることで腸管内の水分量が増える、
つまり下痢・軟便化が起こりやすいという特徴を考慮する必要があります。
しかし、先ほどお伝えしたように、透析患者さんは従来便秘しやすい傾向にあり、
下剤を内服されている方も多くいらっしゃることから、
この下痢や軟便が生じやすいことを上手く活かせる可能性もあります。
(ちなみに、海外では「便秘型過敏性腸症候群」の適応で既に臨床応用されているようです。)
実際に処方した患者さんでは想定通り軟便や下痢傾向になる方がいらっしゃいましたが、
それにより服用を控えるまでに至る患者さんは今のところおりません。
さらにこの薬に期待されることは服用錠数を減らせる可能性があるということです。
これも先ほどお伝えしたように、従来のリン吸着薬は服用錠数が増えてしまう傾向にあり、
またそうでなくても透析患者さんにおける服薬錠数の多さは水分摂取量の増加や内服の
コンプライアンス低下につながるために解決すべき問題として挙げられます。
テナパノルの長期投与試験において、リン吸着薬からテナパノルへの切り替えにより
一日の処方錠数が平均で11錠から5錠程度まで減少したという結果もでているため、
今後はこの内服錠数の減少も期待されるところです。
まだ新しい薬剤であるため、慎重に適応を見極めつつ、
その作用機序を十分に理解しながら使用する必要がありますが、
患者さんの適切なリンの管理を行い、
ひいては皆様の健康寿命を延ばせるようにしていきたいと思っています。