GLP-1受容体作動薬と腎臓の関係
森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。
春の訪れとともに、新しい季節の息吹を感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?
花粉症はいまだに厄介ですが、私たちの病院の近くの公園では先日桜の花が満開となり、窓から見える景色に心癒されました。ほかの草木も新緑を迎え、春の訪れを徐々に感じる毎日です。
さて、本日は糖尿病治療薬として最近普及が進んでいるGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)と慢性腎臓病(CKD)との関連のお話です。
この論文を中心にお話させていだきます。
Impact of Glucagon-like Peptide-a Receptor Agonists on Kidney Disorders CJASN 20: p 159-168, February 2025
最近、糖尿病や肥満の治療において、GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)の使用が増えています。
この薬は、血糖値を下げるだけでなく、腎臓の健康にも好影響を与える可能性があることが分かってきました。
GLP-1受容体作動薬とは、膵臓にあるGLP-1受容体に結合し、血糖値が高い時にインスリンの分泌を促進し血糖を抑えます。主に2型糖尿病患者さんを対象に処方されていましたが、最近では食欲を抑制し体重減少の効果も見込めることから糖尿病のみならず、肥満患者さんにも保険適応が拡大しています。
腎臓に対する影響として、近年のメタ解析によると、GLP-1受容体作動薬の使用は、腎機能の悪化リスクを低減することが示されてきました。どのように腎機能を保護するのかというと、腎臓の血流を改善し十分な酸素と栄養を供給すること、腎臓における炎症を抑えることで腎機能を保護すること、腎臓での異常なたんぱく質の漏出(蛋白尿)を減少させることなどが腎臓にとって好影響であることが推測されています。また、心血管疾患のリスクを下げ、腎機能を保護することで、全体的な健康面で良い方向にはたらく可能性も示唆されています。
糖尿病の患者さんにおいては、高血糖にさらされることで腎臓の血管が傷つき、腎臓機能が低下します。これは糖尿病性腎症と呼ばれ、慢性腎臓病の主要な原因の1つとなっています。糖尿病性腎症は糖尿病患者さんの多くで見られる合併症であり、その進行を防ぐことが重要です。GLP-1受容体作動薬は、この問題を解消、改善するための一つの手段となり、腎機能の保護に寄与することが期待されます。GLP-1受容体作動薬は、糖尿病患者さんにとって腎臓や心血管に良い影響を与える可能性があり、今後もさらなる研究が進むことで、これらの薬の普及が期待されると考えられます。
個人的な経験としても、体重過多傾向のある糖尿病患者さんで、この薬剤を使用することで体重管理、血糖管理が改善し、また直接的、そして体重や血糖管理改善の間接的な観点でも腎機能について維持できている傾向にあると感じています。
今回のGLP-1の薬以外でも慢性腎臓病について効果の期待できる薬剤が増えてきています。慢性腎臓病の進行を防ぎ、患者さんのQOLを維持できるように、適応を慎重に見極めながら、日々の診療を続けていきたいと思います。