お知らせ一覧

BLOG第413回 腹膜透析における除水の遺伝的な要因

2026.04.02

腹膜透析における除水の遺伝的な要因

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆さま、
こんにちは、院長です。

 

今回は、「同じ腹膜透析をしているのに、人によって水の引け方が違うのはなぜか?」ということについて、ひとつの新しい要因についてのお話をさせていただきます。
腹膜透析では体にたまった余分な水分を引く力(除水)には個人差があり、腹膜の機能や糖尿病の有無、透析液の種類や貯留時間(方法)など、いくつかの要因が関係していることはこれまでに比較的明らかとなっていますが、それだけでは説明できない差があることも私たち医療者は日々の診療の中で実感しています。

 

今回ご紹介するのは、腹膜透析の「除水のしやすさ」に、生まれ持った体質、つまり遺伝的な要因が関係している可能性を示した、興味深いアメリカ腎臓学会誌の報告です。

Genetic Architecture of Peritoneal Ultrafiltration
Lessons from the Bio-PD Study
Journal of the American Society of Nephrology(JASN). 2026; 37: 4–5

 

この研究は、世界各国の腹膜透析患者さん約2700人を対象に、透析開始時の除水量と遺伝情報を詳しく解析した国際共同研究(Bio-PD study)のデータをもとに調査・解析しています。解析の結果、腹膜透析でどれくらい水が引けるかという点について、その25〜50%程度は遺伝的な要因、つまり生まれ持った体質の違いが関与している可能性があることが示されました。これは、除水のしやすさが生活習慣や自己管理だけで決まるものではなく、生まれ持った体の特性も関与している場合もある、ということを意味しています。

 

腹膜透析では、腹膜というお腹の中の膜を使って老廃物を除き、同時に余分な水分を体外へ引き出します。この除水がうまくいかなくなる状態を「除水不全」と呼び、体重増加やむくみ、そして心不全による息切れなどの症状の原因になることがあります。除水不全に対しては、尿量を保つためのお薬の調整や、腹膜透析液の種類・やり方を工夫するなど、いくつかの方法で対応しますが、それでも改善しない場合には血液透析との併用療法や血液透析へ完全移行せざるを得なくなることもあります。これまで除水不全は、腹膜の血管が増えすぎることや、腹膜の水の通り道の働きが低下すること、そして高めの血糖値によって透析液の効きが弱くなることなどが原因と考えられてきましたが、今回の研究は、そこに遺伝という新しい視点を加えるものとなっています。

 

さらにこの研究では、炎症に関わる「プロスタグランジンE」という物質に注目した動物実験も行われました。その結果、腹膜の炎症が強くなると除水が悪くなり、逆に炎症の経路を抑えると除水が改善する可能性が示されました。つまり、腹膜の状態や炎症反応が、水の引けやすさに影響していることが、遺伝的な背景も含めて示唆されたのです。

 

ただし、この研究結果をもって、すぐに遺伝子検査を行うことや、新しい薬による治療が始まるわけではありません。現時点では、治療方針が大きく変わる段階ではなく、「なぜ同じ治療をしても人によって反応が違うのか」を理解するための、大切な第一歩と考えるような研究です。

 

この論文を読んで患者さんにお伝えしたい最も大切な点は、除水がうまくいかない場合でも、「自己管理が悪いから」「努力が足りないから」と決めつける必要はない、ということです。体質や体の反応の違いが関係していることも多く、そのため腹膜透析の治療は、画一的ではなく、一人ひとりに合わせて調整していくことが重要になります。

 

当院では、腹膜透析の条件だけでなく、腹膜機能、体液管理や栄養状態なども含めて総合的に評価し、その方に合った治療を一緒に考えていくことを大切にしています。今後も、このような新しい研究の知見を日常診療に活かしながら、患者さんが安心して治療を続けられるよう支援してまいります。
腹膜透析の特色上、通院は月1回程度であることから、当院では相模原市や隣接する町田市、大和市のみならず、海老名や厚木、座間エリアにお住いの患者さんの腹膜透析治療も行っております。腹膜透析がうまくいかないと感じたときも、すぐに治療を諦める必要はありません。気になることがあれば、いつでもご相談ください。