血圧管理の目標について120?140mmHg未満?
森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆さま、
こんにちは、院長です。
我が家には昨年の春に近所の川で捕まえ、その後可愛がっているナマズがいます。家に来たときは体長が15㎝に満たない程度でしたが、今は倍くらいの大きさにすくすくと成長しています。隠れ家としてレイアウトした水槽の中の土管に以前は身体全体がすっぽり入っていましたが、いまは頭隠して尻隠さずの状態になっています。
昨年、日本の高血圧ガイドラインでは年齢や合併症に関わらずすべての方に医療機関での血圧が130/80mmHg未満、自宅血圧は125/75mmHg未満を目標とすることが新しく改訂されました(以前はご高齢の方などではもう少し緩やかな設定でした)。
厳格な血圧管理の重要性は理解できる一方で、血圧が下がりすぎることで起こりうるふらつきや転倒なども考える必要があるかと思います。そこで、今回は、NEJMという世界でも最も権威ある医学誌で“どこまで血圧を下げるか“について取り上げられていたので、そのお話をしていきます。
Blood-Pressure Targets in Hypertension Management
New England Journal of Medicine(NEJM). 2026; 394: 1026–1029
この論文では、75歳の高血圧の患者さんの一例を提起として、「収縮期血圧を120mmHg未満までしっかり下げるべきか、それとも140mmHg未満を目標に維持するべきか」という2つの考え方が提示されています。この論文は、どちらが絶対に正しいと結論づけるものではなく、この2つの考え方について、それぞれの立場から議論が行われている内容です。
血圧をより厳しく下げるべきだという考え方では、これまでの多くの研究から、血圧を低く保つことで脳卒中や心筋梗塞、心不全といった心血管疾患のリスクが低下し、死亡率も下がる可能性が示されています。また、認知機能の低下や認知症のリスクも減らせる可能性があるとされています。実際に、類似した患者群を対象としたメタ解析では、収縮期血圧をより低い目標に設定した場合、心血管イベントが約18%減少し、死亡率も約13%低下したという報告もあります 。
一方で、血圧を下げすぎることへの注意も必要です。特に高齢の方では、血圧が低くなりすぎることで立ちくらみや転倒につながる可能性もあるため、慎重な判断が必要です。この論文で取り上げられている患者さんも、立ち上がったときに血圧がやや下がる傾向もあり、6か月のあいだに2回転倒していました。このような場合、血圧を厳しく下げることで、かえって日常生活に影響が出る可能性もあるため、注意が必要です。また、血圧の変動や低下が、長期的には認知機能に影響する可能性も指摘されています。血圧を下げること自体は重要ですが、その過程で血圧が不安定になったり、低すぎる状態が続いたりすることが問題になる場合もあるのです。
このように、血圧管理においては「低ければ低いほど良い」と単純に考えることはできません。年齢、体力、転倒のリスク、日常生活の状況、他の病気の有無などを総合的に考えながら、その方に合った目標を設定していくことが大切です。
この論文から患者さんにお伝えしたいのは、血圧の目標値は一人ひとり異なるということです。同じ75歳でも、元気に活動されている方と、転びやすさがある方では、適切な血圧の目標は変わってきます。そのため、「数値だけ」にとらわれるのではなく、体調や生活の質も含めて考えることが重要になります。
当院では、血圧の数値だけでなく、めまいやふらつきの有無、転倒リスク、生活のしやすさなども含めて総合的に評価しながら治療方針を決めています。血圧を下げたほうがよいのか、このままでよいのか迷っている方は、どうぞお気軽にご相談ください。患者さん一人ひとりにとって最も安全で安心できる血圧管理を、一緒に考えていきたいと思います。
さらに、腎臓病や透析患者さんにおける血圧管理は、一般的な高血圧の考え方とは少し異なる点もあります。例えば慢性腎臓病(CKD)では、血圧を適切にコントロールすることで腎機能の悪化や心血管疾患のリスクを減らせることが知られており、ガイドラインでは比較的厳格な血圧管理が推奨されています(特に尿蛋白が陽性であれば)。一方で透析患者さんでは、血圧が低すぎることがかえって予後に悪影響を与える可能性や、透析中の血圧低下、いわゆる「透析中低血圧」が問題となることもあり、単純に「低ければ低いほど良い」とは言えないことも分かってきています。また血圧の過度な低下がシャント閉塞の原因となることもあります。
実際、透析患者さんでは血圧と予後の関係が一般の方とは異なり、いわゆる「U字型」の関係、つまり高すぎても低すぎてもリスクが高くなることが報告されています。そのため、血圧の目標は一律ではなく、体調や透析条件、残っている腎機能、日常生活の状況などを踏まえて個別に設定することが重要とされています。
このように、血圧管理は数値だけで決めるものではなく、その方の背景や治療状況を含めて総合的に考える必要があります。当院では、相模原市、町田市、大和市エリアで腎臓病・透析医療の専門施設として、最新の知見を踏まえながら、一人ひとりに最適な血圧管理を提案しています。気になる症状や不安な点があれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。







