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BLOG第401回 透析前に蛋白質を摂取すると栄養指標は改善するか

2026.02.09

透析前に蛋白質を摂取すると栄養指標は改善するか

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆さま、
こんにちは、院長です。

 

日々外来や透析室で患者さんと向き合う中で、「最近食欲が落ちてきた」「体重が減ってきている」といったご相談を耳にすることがしばしばあります。ご高齢の方や長期透析の患者さんでは栄養不良が進行しやすく、感染症のリスクが高まることや、疲れやすさが増すことなど、生活の質に大きく影響します。私たち医療者にとっても、栄養状態を維持すること、改善することは非常に重要なテーマであり、治療の根幹を支えるものだと日々感じています。

 

従来、透析患者さんに対しては“食事制限/指導”が中心でしたが、近年はフレイルやサルコペニアという身体の脆弱性を回避するためにも十分な栄養を積極的に取り入れることの重要性も周知されてきています(BLOG第184回 フレイルはご存じですか?)。透析患者さんは食欲低下や飲み込みの問題、味覚の変化などで十分な食事や必要栄養素を摂取できないこともあり、「補助栄養のあり方」が再考されている領域です。

 

そこで今回のブログでは、その栄養課題に対する新たなアプローチとして「透析前のタンパク質補給」が実際にどれだけ効果的なのかを検証した興味深い研究をご紹介します。
The impact of predialytic oral protein-based supplements on nutritional status and quality of life in hemodialysis patients: a randomized clinical trial BMC Nephrology. 2025; 26:103 

 

この研究は、アメリカで100名の維持血液透析患者さんを対象に行われ、透析開始1時間前に25グラムのタンパク質パウダーを摂取する群と摂取しない群にそれぞれ50名ずつに無作為に分けられました。従来、食事や補助栄養を透析中に摂る「透析中補食」が議論されてきましたが、血圧低下や透析効率低下といった懸念も指摘されており、「透析前摂取」という新しい視点、新しいタイミングでの実証研究となっています。

 

この研究の結果では、補助栄養を受けた患者さんでは 血清アルブミン値が有意に上昇していました。アルブミンは低下すると感染症や入院リスクが増加することが知られており、これが改善したという事実は朗報です。また、KDQOL-36という生活の質の評価では、併存する症状や身体的問題、腎疾患による身体への影響、身体的健康度合いなど、複数の項目で改善が認められ、日常生活の中で感じるつらさや体の動かしやすさが良い方向に変化した可能性が示唆されました。

 

しかしながら、良い面ばかりではありません。透析前にタンパク質を摂取した群では、Kt/V や URR といった透析効率の指標がわずかに低下していました。これはタンパク質摂取に伴う尿素産生の増加や、満腹時に起こる血流分布の変化が影響している可能性があります。しかし透析効率の下がり方は比較的小さく、一般的な血液透析の目標値を下回るほどではありませんでした。また、血圧がやや上昇していた点にも注意を要します。透析中の血圧低下を防ぐ効果もあると言えるかもしれませんが、高血圧の管理が必要な患者さんでは慎重な観察が求められます。一方で、蛋白質を多く摂ることで、血清リン値が上昇する懸念もありますが、本研究においては2群間でリンの値に有意差はありませんでした。

 

ここで大切なのが、「タンパク質を摂れば摂るほど良い」というわけではないことです。透析患者さんにおけるタンパク質の過剰摂取は、尿素窒素の上昇、食欲低下、高リン血症、血圧の悪化、透析効率の低下などを引き起こす可能性があります。今回の25gという補給量は、すべての透析患者さんに適した量とは言い切れないと思います。人種間の差や、年齢や性別、患者さんの基礎疾患や生活背景などを考慮する必要があり、単純に摂取量を大きく増やすことは推奨されず、個別に必要摂取量を考えることが重要と思われます。

 

しかしながら今回の研究は、透析前の補助栄養という実践的で取り入れやすい方法が、栄養状態や生活の質の改善に寄与する可能性を示した点で非常に意義深いものです。同時に、透析効率や血圧への影響など、注意すべき点も明らかにし、“万能策ではなく適切な管理のもとで行うべきアプローチ”であることも言えるでしょう。

 

当院では、引き続き管理栄養士も含めた透析スタッフが一体となり、食事内容、体液管理、透析条件の見直しを含めた包括的な支援を行っていきます。これからもあたらしい知見を取り入れながら、患者さんが安心し、その人らしい生活を続けられるよう支援してまいります。