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BLOG第42回 透析患者さんの痒みについて ②治療法

2020.10.05

透析患者さんの痒みについて ②治療法

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

前回、透析患者さんにおける痒みの原因についてご説明しましたが、今回は治療法についてお話しします。

 

前回説明したように、痒みの原因は多岐にわたりますが、このうちの大部分を占めるのが、透析や加齢に伴う皮膚乾燥だといわれています。
皮膚乾燥と、それに伴う痒み神経の過敏を治すには、『スキンケア』と『痒み刺激を回避する生活改善』がとても重要な治療法です。
(参照:日本皮膚科学会雑誌第122巻第2号 汎発性皮膚瘙痒症診療ガイドライン

 

では『スキンケア』とは具体的にどのような事でしょうか?
『スキンケア』の基本は、『保湿』です。
保湿剤を塗ることで角層に水分を保つ事ができ、外部からの刺激から守ってくれます(バリア機能の改善)。また、保湿を継続する事で痒みを感じる神経が表面に伸びてくるのを防いでくれます。
洋服などの摩擦刺激や、引っ掻く事で二次的な湿疹ができてしまっているケースでは、場合によっては『抗ヒスタミン薬』や『ステロイド剤』の外用剤も必要となってきます。

 

痒みを訴える患者さんはこのように『塗り薬』いくつか処方されると思いますが、処方されたものの実際どうやって塗るのかよくわからない、という方は多くいらっしゃると思いますので、外用剤の使い方についてご説明したいと思います。

【塗り薬について】
(1)塗る部位:『保湿剤』と『その他の外用剤』の使い分け

処方される薬は大まかに『保湿剤』と『その他(赤み痒みのある部位に塗る薬);抗ヒスタミン薬やステロイド剤』に分けられます。
『保湿剤』は基本的に乾燥している部位全体に塗り、『その他の塗り薬』は痒い部位にピンポイントに塗ります。例えば、乾燥しやすく痒みを訴える方が多い部位の代表の、膝下を例にしてみると、膝下全体が乾燥はしているけれど、痒かったり赤かったりするのはスネの部分だけ、という場合がよくあります。この場合、『保湿剤』は膝下全体に塗り、『その他の塗り薬』は痒い・赤い部分に局所に塗ります。

 

(2)塗る順番:保湿剤→その他

一般に塗る面積の広い方から先に塗ります。
『保湿剤』と『その他(例:ステロイド外用剤)』を両方処方されている場合、塗る面積の広い『保湿剤』から先に塗り、後から『ステロイド外用剤』を湿疹等の病気の部分だけに塗ります。先にステロイド外用剤を病気の部分だけに塗ってから、保湿剤を塗るとステロイド外用剤が塗る必要のない部分まで広がることで、副作用が起きる可能性があるためです。
(参照:日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 皮膚科領域の薬の使い方

 

(3)塗る量

使用量の目安としてFinger Tip Unit(FTU:フィンガーティップユニット)を用います。
チューブでは、成人の人差し指の先端から第一関節までの長さを押し出した量が1FTUで、約0.5gに相当します1,2)。ローションの場合は、1円玉大に出した量が1FTU(約0.5g)となります2)。瓶では、成人の人差し指の先端から第一関節の1/2までの長さをすくった量が約0.5gです3)。

 

1)Long CC et al.:Clin Exp Dermatol, 16(6), 444-447, 1991
2)中村 光裕 ら:皮膚の科学, 5(4), 311-316, 2006
3)「ヒルドイド®ソフト軟膏0.3%100g瓶からの製剤採取方法と採取量」
マルホ株式会社 彦根工場 品質管理グループ, 社内資料, 1-5, 2014

Finger Tip Unit

 

1回使用料の目安です。(それぞれ全体に塗った場合の)

FTU目安量

※塗る量が少ないと十分な効果が得られなかったり、塗る際に皮膚に摩擦力が加わってしまう場合があるので、適正量を塗りましょう。
『塗った後、ティッシュペーパーが張り付く程度』、というのも目安の一つです。

 

(4)塗り方

外用剤は塗り方によって効果にかなり差がでます。
塗り方で重要なのは、『優しく塗り広げる』です。

塗る範囲が広い保湿剤の塗り方を例にご説明します。

 

まずFTUを参考に適正量を指に取る

塗る範囲に数か所に分けて塗り薬を置く

手のひらで優しく丁寧に、擦り込まないようにして乗せるように塗り広げます。
体のしわ(皮溝)に沿って塗ると、ムラなく塗ることができます。

 

※成分が吸収されると思って擦り込んで塗る方が意外と多くいらっしゃいますが、
『擦り込む=肌に自ら刺激を与えてしまっている』ため、逆に痒みを悪化させる原因になってしまう事が多いです。
(参照:マルホ株式会社HP 透析治療を受けている患者さんへ スキンケアと保湿剤の塗り方

 

また、『スキンケア』と同じくらい重要なのが、『痒み刺激を回避する生活改善』です。
痒みを訴える方の中には、日常生活で無意識に痒みを誘発・悪化させる行為をしている方が実は多くいらっしゃいます。

【日常生活での注意点】
(1)入浴時

・熱いお湯、長風呂はさけましょう(そう痒症の方の湯舟の適正温度は40度以下といわれています)
・タオルでごしごし洗わない(タオルは皮脂を過剰に取りすぎるだけでなく、皮膚への刺激になってしまいます。手で洗うか、綿などの低刺激のタオルで優しくなでる程度にしましょう)

 

(2)衣類

・特に肌着など直接肌に触れる衣類は、木綿や絹など刺激の少ないものにしましょう。
・衣類のタグが触れる部分に痒みや湿疹ができる場合は、タグを完全に取るか、裏返しに着るなどしましょう。

 

(3)食べ物

・アルコール、香辛料は体が温まり、痒みが増強するので避けましょう。

 

(4)掻かないようにする!

・爪は短くきっておきましょう
・「孫の手」で背中を掻くのは逆効果です(一時的に痒みがおさまりますが、後に更に強い痒みになってかえってきます)
・痒い時は、冷やしましょう

 

 

たかが痒みと思われがちですが、透析患者さんの中には「痛いより痒いほうが辛い…」とおっしゃる方もいるくらい、痒みが重症化する事もあります。また、一度悪化するとなかなか治りづらい事が多いので、痒みの出はじめに早めに治療を開始する事が大事です。夏が終わり、これから乾燥してくる時期ですので、予防的に保湿しておくのもよいかと思います。

 

より快適な生活を送れるよう、生活習慣や薬の塗り方など、今まで気づかなかったポイントでいろいろ工夫できるところがあるようです。