SGLT2阻害薬は二刀流②
森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。
今回は前回ブログに引き続き、SGLT2阻害薬の論文の紹介です。
前回のブログ→BLOG第270回 SGLT2阻害薬は二刀流①
SGLT2阻害薬の腎臓における①血行動態を介する作用と②血行動態を介さない作用について、今回は②についてのお話です。
国際腎臓学会の刊行誌であるKidney International誌に今年掲載された論文です。
Mechanisms of action of sglt2i: hemodynamics versus metabolic
引き続いて②の血行動態とは関連のない腎保護作用をお話しします。
これは主に尿細管と呼ばれる腎臓の一部(子宮体で濾過された後の尿が通り、電解質などの再吸収を司る部位)の修復による作用です。CKDによる腎機能障害が徐々に進行していく過程では、腎臓における低酸素状態がCKDの増悪に悪影響を及ぼしています。SGLT2阻害薬はCKD患者さんにおける貧血を改善することが最近少しずつ報告され始めています。腎臓の機能が低下するにつれ、エリスロポエチンと呼ばれる造血のために必要なホルモンが減少し、CKDにおいては腎性貧血と称される貧血が起こりやすくなります。SGLT2阻害薬はこのエリスロポエチン産生を亢進させる作用があると考えられはじめています。また、同時にSGLT2は腎臓における酸素需要を軽減させることも期待できます。ということで貧血の改善(ヘモグロビンの増加)、つまりは酸素供給量を改善(ヘモグロビンは身体の臓器に酸素を運ぶ役目です)させ、同時に酸素需要を減らすという腎臓で起こるミスマッチを改善することが出来るのです。
さらに、SGLT2阻害薬は栄養経路においても重要なプラスの働きをしています。SGLT2阻害薬は心不全の患者さんにおいても、その心保護作用から広く普及し服用されていますが、利用可能なエネルギー源として機能するケトン体と遊離脂肪酸を増加させることが、心保護のひとつの要因と考えられています。したがって、SGLT2 阻害剤は、腎臓においても恒常性と代謝を回復するための栄養欠乏と栄養過剰のシグナル伝達の調節因子として機能している可能性が考えられています。
このように①血行動態を介した、そして②血行動態を介さない働きの2つの側面からSGLT2阻害薬は腎臓を守る働きで活躍しているようです。以前のブログにも記載した通り、CKDの患者さんすべてに適応となるわけではなく、適応が難しい方、そして服用する際に慎重に経過を観察する必要がある方もいらっしゃいます。とくにこれから気温が益々上昇する夏を迎えるにあたり、尿から糖分を排泄する機能のあるSGLT2阻害薬は、その服用により尿量が増加することを忘れてはなりません。つまりはSGLT2阻害薬を服用するにあたり、脱水に注意が必要となります。脱水は腎機能障害を引き起こし、CKDの増悪にも影響するため注意が必要であり、こまめに適切な水分摂取が大切となります(適切な水分量は患者様それぞれで異なることにも注意してください)。
これからも腎臓を守るために、機能を十分に理解して、この二刀流の薬を役立てていこうと考えています。