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BLOG第103回 睡眠時無呼吸症候群について ~③治療~

2021.11.04

睡眠時無呼吸症候群について ~③治療~

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

前回までに睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)の病態と検査方法を紹介してきました。
BLOG第97回 睡眠時無呼吸症候群について ~①病態~
BLOG第99回 睡眠時無呼吸症候群について ~②検査~
最後に、SASの治療方法についてご説明します。

 

・主な治療法は4種類
一般的な閉塞性SASに対する治療方法は以下の4種類です(1)。
①持続陽圧呼吸療法(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)
②歯科的治療(マウスピース)
③外科的治療
④生活習慣の改善
その他に、中枢性SASの場合はSASの原因となっている慢性心不全などの疾患に対する薬物治療を実施することもあります。

 

それでは、SASの一般的な治療方法についてひとつずつ説明していきます。

 

①CPAP療法
前回の検査のブログで無呼吸低呼吸指数(AHI: Apnea Hypopnea Index)についてご説明しましたが、ポリソムノグラフィーでAHIが20以上で、日中の眠気などの症状を認めるSASではCPAPによる治療が標準的とされています。CPAP療法とは、睡眠中に鼻につけたマスクから持続的に空気を流し圧力(陽圧)をかけ、気道を広げて閉塞を防ぐことにより、無呼吸や低呼吸を改善する治療方法です(2)。中等症から重症のSASの患者さんには多くの研究により治療効果が証明されています。睡眠中に装着する専用のマスクに対する違和感や空気を流すためのポンプの音が気になる場合もありますが、正しい方法でCPAP療法を行うと、日中の眠気がなくなるなど比較的速やかに効果が実感できます。CPAP療法は、簡易検査でAHIが40以上もしくはポリソムノグラフィーでAHIが20以上で保険適応となります。

 

②歯科的治療(マウスピース)
マウスピースを用いた治療は、軽度のSASと診断された方や、中等症から重症のSASで前述したCPAP療法の適応であっても、CPAP療法が合わずに継続ができなくなった場合に使用します(3)。SASの治療で用いるマウスピースは、睡眠中に下あごや舌を前方に押し出すことでのど(咽頭)に適度なスペースを作り、空気の流れ道を確保することで無呼吸や低呼吸を改善します。一人ひとりに合ったもの歯科受診にて作製しますが、あごの関節痛や、唾液の分泌が増えることなどの不具合も起こる可能性があります。

 

③外科的治療
閉塞性SASの場合はアデノイド肥大や扁桃肥大が原因となっていることがあります(4)。アデノイド切除、扁桃切除、そして喉の奥の過剰粘膜を切除することなどで気道を拡大させる外科的治療によってSASの原因を取り除くことができます。気道狭窄や閉塞部位が咽頭(喉の奥)に限定される場合には有効であることもありますが、術後にのどの痛みや飲み物が鼻に逆流することなどの問題が起こることもあります。

 

④生活習慣の改善
軽症のSASの場合には、生活習慣の改善や減量により睡眠時の無呼吸が軽減もしくは解消されることも期待されます。以下にポイントを述べます。

減量:肥満は閉塞性SASの原因のひとつだと考えられています(1)。軽症のSASであれば減量のみで効果が期待できますが、重症のSASの場合は日中の眠気などで活動量を維持することが難しく、CPAP療法を併用して減量を行っていくことが効果的です。

禁煙:喫煙により血中酸素濃度が低下と咽喉頭部の炎症の関与によりSASを悪化させることが考えられており、禁煙指導を行います。

飲酒制限:アルコールの摂取は上気道の筋緊張を低下させ、気道閉塞や狭窄になりやすくなるため、就寝前の飲酒を制限します。

睡眠時姿勢の工夫:仰向けで就寝する際には上気道に下向きに垂直の重力がかかり、舌が下がる(舌根沈下)ために気道狭窄や閉塞につながりやすくなります。横向きに寝るために背中にゴムボールを貼ることや枕を調整することなどの指導を行います。

 

わが国には全国で有症状のSASの患者さんの数は200万人と報告されており、無症状の方を含めるとさらに患者数は多くなると推測されます(5)。睡眠中の無呼吸により良質な睡眠が得られず日中のパフォーマンスに影響が出ること、そして臓器への酸素供給が低下することでの種々の疾患の併発や悪化することは、日常生活や生命予後にも深く関わります。「日中に眠気やだるさを感じる」「家族からいびきについて指摘を受けた」などの経験がある方は、当院で検査と治療が可能ですので、一度ご相談すること検討していただければと思います。

 

【参考資料】

(1) 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
(2) 睡眠時無呼吸症候群~診断と治療~
(3) ―耳鼻咽喉科医が行ういびき,閉塞性睡眠時無呼吸の治療―
(4) 睡眠時無呼吸症候群 – MSDマニュアル プロフェッショナル版
(5) 治療学30(2); 179-182:1996
  閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有病率と性差,年齢差(解説)
  著者 粥川 裕平(名古屋大学 医 精神科), 岡田 保