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BLOG第116回 宇宙旅行と放射線

2021.12.30

宇宙旅行と放射線

森下記念病院ブログをご覧の皆様、
こんにちは!放射線課です。

 

今年は何人もの民間人が宇宙に旅行し始めたこともあり、宇宙新時代と言われています。
なかでも日本人の前澤友作さんは国際宇宙ステーション(ISS)に12日間の滞在というスケールの大きさで、彼の夢の大きさとそれを実際にやってのける実行力や発信力が凄すぎて尊敬の気持ちでいっぱいです。打ち上げ時の強烈な垂直Gに背筋がZOZOっとしたかはわかりませんが、ISSから前澤さんが地球は青かった。生まれ故郷の千葉も青かったと写真をTwitterに投稿していていました。当院のある相模原も一緒に青く写っていました。

私が子供の頃に思い描いていた宇宙は銀河鉄道999や宇宙戦艦ヤマトのような現実とは程遠いもので、庭から星空を眺めながら夏はアンタレス、冬はベテルギウスを発見して喜んでいたくらいで、宇宙は遠い遠い夢の世界でした。
乗員全員が安全で無事に地球に帰還することを祈るばかりです。(掲載の時には無事に帰還できていると思います!!)

 

さて宇宙旅行や宇宙滞在となると地上とは違った宇宙放射線を受けることになります。
放射線技師として宇宙放射線の存在は知っていても、宇宙飛行士の被ばく線量がどれくらいになるのかを知らず、恥ずかしながら前澤さんの件で簡単に調べてみました。

環境省によると、日本人の1年間に受ける平均被ばく線量は5.98ミリシーベルトであり、そのうち2.1ミリシーベルトが自然放射線からの被ばくと推定されています。残りの3.88ミリシーベルトは医療被ばくで、健診や医療機関での検査によるものです。胸部レントゲン撮影が約0.05ミリシーベルトと考えると、いつの間にか知らないところで自然界から放射線を受けていることがおわかりいただけるかと思います。

地球は大気によって宇宙から降り注ぐ宇宙放射線を遮っているため、地表に届くまでに宇宙からの放射線は100分の1以下まで減少しているそうです。
宇宙は地上よりも放射線量が高い環境にあって、国際宇宙ステーションでは半年で約100ミリシーベルト、月面では年間約420ミリシーベルト被ばくすると試算されています。つまり1日に約1ミリシーベルトの被ばくを受けている事になります。前澤さんの12日間の滞在での被ばくを12ミリシーベルトと考えると、2年間分の自然放射線量に匹敵します。

では宇宙放射線を受ける過酷な環境で長期間にわたり滞在した宇宙飛行士を調べてみたところ、ロシアのワレリー・ポリャコフ宇宙飛行士が最長で438日間、累計記録は5回の飛行でロシアのゲネディ・パダルカ宇宙飛行士が879日の宇宙滞在を行っています。被ばくの心配はもちろんですが、大地を踏めない制限の多い宇宙ステーションの中で、様々なミッションを行い1年以上生活されている事に敬意を表します。

それでは今までの宇宙飛行士たちが宇宙放射線の被ばくによって健康障害を受けたかというと、そうでは無いようです。
医療放射線防護連絡協議会総務理事の菊池透先生の解説では、500人以上の宇宙飛行士が述べ千回以上も地上100㎞以上の宇宙ステーションに滞在して、半年間で100~200ミリシーベルトの放射線量を受けていたのにガン発生率は地上で暮らす私たちと有意な差は無いという事でした。

また平均余命もアポロ計画で月面着陸と月周囲を回った24名の宇宙飛行士の内、16名は今も存命で平均年齢は84歳と一般の人と大して変わらないようです。

宇宙での長期滞在者が今後も増えることで、宇宙放射線が人体に及ぼす影響がさらにわかってくるのではないかと思います

 

宇宙飛行士たちが一般人よりも多く被ばくをしても健康で長生きできているから多少の被ばくは大丈夫だろう?なんて考えて仕事をしていたら放射線技師失格です。

健康診断や医療において患者様が受ける医療被ばくには線量限度がありません。これは線量限度を適用すると必要な検査や治療が受けられないケースが生じ、放射線の便益を損なうおそれがあるからです。医療で放射線を受けるには害よりも便益が多くなければなりません。
私たち放射線技師は安心で安全な検査を受けて頂くために、診断可能なレベルでできる限り被ばくを少なくする努力をしています。

検査でもし何か解らないことがございましたら、遠慮なく担当者にお聞きください。