腹膜透析の新しい透析液の可能性
森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。
ようやく涼しい風が吹き始めたと思ったら、寒さも感じるようになりました。
夏の時期は、自分も含めてですが、診療で拝見する多くの方が暑くて外で身体を
動かせないとおっしゃっていましたが、そろそろ気温を言い訳にはできませんね。
適度な運動は、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、高尿酸血症など、生活習慣病の治療の基本ですので、
また頑張っていきましょう。
今回は当院が注力し、多くの患者様を診療している腎代替療法である腹膜透析の新しい透析液の可能性についての話題です。
腹膜透析は、本来腎臓の役割である老廃物の除去と蓄積する体液を体外に排泄するために行われる治療です。過剰な体液を体外に排泄することを “除水”と呼び、腹膜透析ではこの除水を行うために、腹膜透析液にはブドウ糖が含まれています。このブドウ糖を浸透圧物質として、浸透圧原理のもとで、体に溜まっている余分な水分が透析液に排出されていきます。
(腹膜透析については、腹膜透析のページもご参照ください)
当院HP 腹膜透析について
これまでの歴史のなかで、腹膜透析液は時代と共に、酸/アルカリ性の適合など、より生体適合性の高い(体に優しい)組成になるように進歩してきました。現在の透析液における主流の浸透圧物質であるブドウ糖は、最終的には血中にある程度入るため血糖が上昇することや、代謝などの観点からまだ改善の余地があると考えられています(一方で150-200kcal/日程度のカロリーが取り込まれることは、食事摂取量が低下しているご高齢の方にはメリットとなる場合もあります)。また、ブドウ糖に代わる浸透圧物質としてはイコデキストリンという物質があり、イコデキストリン入りの腹膜透析液は現在すでに使用されていますが、1回/日の使用の制限があります。
これまでの腹膜透析液よりも、さらに生体適合性を高めて安定した腹膜透析が長期に継続できるように、新しい腹膜透析液が開発され、現在ヨーロッパで治験が行われています(Rationale and design of ELIXIR, a randomized, controlled trial to evaluate efficacy and safety of XyloCore, a glucose-sparing solution for peritoneal dialysis. Perit Dial Int. 2024 Aug 28:8968608241274106.)。この透析液にはブドウ糖の代わりに浸透圧物質としてキシリトールとL-カルニチンが使用されています。このふたつの物質はブドウ糖と同等の分子量であり、浸透圧物質として機能し、化学的に安定で、水溶性が高く、ブドウ糖に比べて糖負荷がかかりません。体内のブドウ糖の代謝においては、キシリトールは体内でインスリンを分泌させず、L-カルニチンは筋肉でのブドウ糖の取り込みを増やし、さらにキシリトールとL-カルニチンは肝臓での糖新生を阻害することから、より糖負荷にならずに腹膜にやさしく、生体適合性が高いことが期待されています。
腹膜透析は、働き盛りの方にとっても、またご高齢で負担を減らしたい方にとっても、メリットの大きい治療法です。
この新しい腹膜透析液によって、より安定した腹膜透析が長期に行えるようになることを期待しています。