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BLOG第57回 慢性腎臓病(CKD)への当院の取り組み③

2020.12.10

慢性腎臓病(CKD)への当院の取り組み③
~腎代替療法(腎移植、腹膜透析、血液透析)選択外来について~

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、こんにちは、院長です。

 

当院では以下の3つの柱でCKD診療に対して取り組んでおり、本日は③腎代替療法選択外来についてご説明させていただきます。
①CKD保存期外来
②CKD連携パスを用いた地域のかかりつけの先生方との連携
③腎代替療法選択外来

 

③腎代替療法選択外来
開設の背景

  • 従来の医師の外来診察だけでの腎代替療法の選択肢提示には時間的な制約がある。
  • 医師に対する遠慮などから、十分な話し合いの下で患者さんとそのご家族が主体的に意思決定をしているとは言い難い状況にあることが想定される。

開設の目的

  • ライフスタイルや生きがいを尊重し、話し合いを重ねて共同で腎代替療法の選択ができるよう支援する。
  • 計画的な透析導入により心構えや、家庭や職場での役割を続けるための体制を整える準備ができる。
  • 自身で選択した治療は受容しやすく、セルフマネジメントを含めて前向きに治療に望めるようになり、治療成績を向上させる。

 

このような背景と目的をもとに、腎代替療法選択外来を開設いたしました。
腎代替療法選択外来は、CKDが進行し、1-2年以内に腎代替療法が必要となりそうな患者様に向けて、前々回のブログでご紹介した保存期外来と併せて開設した外来です。この外来の基本となる概念が共同意思決定:Shared Decision Making(SDM)であり、これについて詳しくお話しさせていただきます。

 

わが国の医療業界において20-30年前までは、治療方法の選択に関してパターナリズム(paternalism 日本語訳:父権主義)という概念が浸透していました。パターナリズムとは、強い立場にある者が弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援することであり、臨床現場では強い立場の医師が患者さんの保護者的な役割で治療法決定が行われているという風潮がありました。この風潮は医師>患者さんという強弱の関係があれば成立していたと思われますが、次第に患者さんの意思が尊重されるべき、という問題点が浮き上がってきました。

 

この流れに対して、パターナリズムに代わり台頭した概念が患者自己決定であり、“インフォームドコンセント”や“インフォームドモデル”と称される概念です。これは、医療者側が医学的情報を提供し、“患者さん“が治療法を決定するモデルです。医師は治療法について患者さんに説明しますが、決定するのは患者さん本人であるということで、意思決定が分業型されています。この風潮によって、パターナリズムの時代に比べて患者さんの意思が尊重されるようになっていきましたが、患者さん自身の知識の習得具合や医療者との情報共有の不十分性などを原因に、意思決定においてまだまだ患者さんが脆弱であるケースも多々あり、患者さんの真意とは言えない事態に陥ることも見られました。

 

そこで登場してきた概念が、SDMです。これは、医療に存在する不確実性(どの治療法が個々の患者様にとって最良なのかが決まっていないこと)に対して、患者さんの生きがいや生活環境などの価値観、今利用できる医療の最善のエビデンスと情報、医療者の知識と経験を考慮しながら医療者と患者さんが協働で最善の治療方針を決定していく概念です。SDMでは医学的な見解やエビデンスは勿論のこと、さらに医療者の経験、そしてなにより患者さんの価値観や背景を十分に考慮することが特徴です。この過程を踏むことで、患者さんの満足度、自己管理能力、日々の生活、治療成績が改善することが報告されており(Helping people share decision making. A review of evidence considering whether shared decision making is worthwhile: https://www.health.org.uk/publications/helping-people-share-decision-making)、加えて、医療者と患者さんの信頼関係を強固にすることも期待されます。

 

医療技術は日々進歩しており、治療法の選択肢は増えていく一方で、患者さんごとに異なる多様な価値観を考慮して満足のいく治療を継続し、治療成績を向上させ、より豊かな生活が送れるように支援することの重要性は昨今増してきています。当院では腎代替療法選択外来を開設するにあたり、この概念はとても重要であると考えました。開設以降SDMに基づき十分に時間をかけて腎代替療法選択外来を行っており、実際に当院でSDMを介して腎代替療法を選択され、透析を開始されている方々は比較的満足されて治療を継続し、セルフマネジメントも習得されている印象を受けています。

 

当院では常勤腎臓専門医3名、透析専門医4名の体制に加えて透析看護認定看護師、慢性腎臓病療養指導士、腹膜透析認定指導看護師、理学療法士、栄養士、薬剤など多角的に介入を行い、腎臓病・腎不全に注力する病院としての体制を強化しています。当院は相模原市に位置しますが、相模原のみならず、すぐ近隣の町田市、大和市、座間市などの範囲からの患者様も通院されています。引き続き、この地域の患者様が豊かな生活を送れるように支援できるよう、努力を続けてまいります。