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BLOG第108回 道路(交通)騒音が高血圧・糖尿病の発症率に関係する?

2021.11.22

道路(交通)騒音が高血圧・糖尿病の発症率に関係する?

森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。

 

先日、たまたま平日の昼間に自宅で事務作業を行う機会がありました。日曜日に家族と過ごす際には気にならなかったのですが、平日ならではの交通量の多さによる、車やトラック、電車の騒音が耳に入ることに気づき、意外に集中力をそがれるものだと自覚しました。仕事の後に騒音と医学にまつわる記事を興味半分で検索してみたところ、道路交通の騒音と糖尿病と高血圧の発症率に関する研究が見つかり、読んでみたのでこちらの内容を紹介してみようと思います。

 

米国心臓協会の刊行している雑誌であるJournal of the American Heart Association誌に2020年3月に掲載された報告です。
Journal of the American Heart Association. 2020, Mar 17; 9(6): e013021. Association Between Road Traffic Noise and Incidence of Diabetes Mellitus and Hypertension in Toronto, Canada: A Population-Based Cohort Study.

 

交通騒音と病気なんて関係ある?と思われる方もいるかもしれませんが、交通騒音への暴露(ばくろ)が血圧上昇などの循環器的異常や、血糖調整障害などの代謝異常と関連している可能性があるとする報告はもともと知られているようです。しかし、実際に糖尿病や高血圧が発生する率が増えるかどうかについて示す疫学的証拠はまだ十分ではなく、本研究では道路交通騒音と糖尿病および高血圧の発生率との関連が検討されました。

 

研究の対象となったのは、カナダ(トロント)の35歳から100歳までの長期居住者で、もともと高血圧症や糖尿病の既往歴のない人です。その人々を対象に、後ろ向き研究が行われました。研究対象者としては、糖尿病の発症率に関しては91万人(平均年齢53.3歳±14.4歳)、高血圧の発症率については70万人(平均年齢51.9歳±13.0歳)が調査されました。

 

2001年から2015年まで追跡調査を行ったところ、1日の平均的な騒音レベルが10 dBA上昇するごとに、糖尿病の発症リスクが8%増加し、高血圧の発症リスクは2%上昇することがわかりました。さらに、これらの関連性は、大気汚染物質とは無関係に独立した危険因子であることを示唆されました。騒音と糖尿病発症の関連は、女性、若年者、高所得地域に住む人々、および高血圧症の既往のある人々の間でより強くなる傾向があり、高血圧と道路交通騒音との関連でも同様のパターンが観察されました。

 

トロントはカナダで最大の都市であり、道路交通の整備が比較的整っています。北米では環境危険因子と心血管疾患の負担が増加していることが以前より問題視されており、このような関係を理解することは公衆衛生上重要な意味を持つと考えられます。この研究は、道路交通騒音への暴露が糖尿病と高血圧の発生率に及ぼす長期的な影響を調査した北米最大の疫学研究であるため、これらの関連を示す大きな疫学的証拠となっているようです。

 

この記事を読んで、日本に置き換えて考えてみても、同様の影響を及ぼしている可能性が考えられると感じました。特に日本は人口の密度も高く国土も狭いので、道路交通騒音への対策が十分になされていない地域も多くあり、影響は少なからずあるのではないかと考えられます(現に私もストレスを感じましたので)。道路交通騒音を避けた住居の選択がストレス軽減だけでなく、糖尿病や高血圧の予防にも繋げることができるかもしれません。

 

当院では糖尿病や高血圧をお持ちの患者様も通院されていますが、さすがに騒音を減らすことにまでは介入が難しいですが、このような知識を得ると、病気に対しては、薬のみの治療ではなく、幅広い視野でのアプローチが必要であることを感じます。

 

糖尿病や高血圧は心血管疾患さらには慢性腎臓病(CKD)の重要な危険因子であり、健康で長生きするために、“道路交通騒音を避ける暮らし“ということを考えてみることも大切かもしれません。