透析導入の適切なタイミングについて①
森下記念病院のスタッフブログをご覧の皆様、
こんにちは、院長です。
今日は昔から議論が続いている透析導入の適切なタイミングについて、これまでの研究をまとめた最新の総説を中心にお話していきます。
Early Versus Late Initiation of Dialysis in CKD Stage 5: Time for a Consensus
Kidney Int Rep 10: p 54-74, 2025
透析の開始時期が腎機能が低下した患者さんの健康に与える影響についての議論はこれまでも多くの研究のテーマになっており、特に慢性腎臓病(CKD)の患者さんにおいて、透析の早めの開始と遅い開始の違いについて多くの研究が行われていますが、絶対の答えはない状況でした。本論文では、進行したCKDの患者さんにおける透析開始時期の早い導入と遅い導入についてこれまでの報告をまとめて比較し、患者さんの予後に与える影響、死亡率や合併症の発生率、患者さんの生活の質(QOL)について探っています。
透析の開始時期については、早期透析と遅延透析のそれぞれに利点と欠点があり、以下そのポイントをまとめます。
早期透析導入のメリット
- 栄養状態の改善: 早期透析により、尿毒症により悪化した栄養状態がより早く改善される可能性がある。
- 入院率の低下: 早期に透析を始めることで、尿毒症症状の急激な出現(体液過剰による呼吸苦、心不全症状や著明な倦怠感、不整脈、意識レベル低下など)による入院の必要性が減少する可能性がある。
- 心臓病リスクの低減: 早期に透析を開始することで、心血管系の健康に対するリスクを低減できる可能性がある。
- 全体的な生存率の向上: 早期の透析導入では、一部の研究では生存率の改善が示されている。
早期透析導入のデメリット
- 腎機能の早期喪失: 早めの段階から透析を行うと、透析導入後も残っている腎機能(残存腎機能)の喪失が早くなり、自尿が早く喪失する可能性がある。
- 透析関連合併症のリスク: 早期透析開始は、感染症や血栓形成のリスクを増加させる可能性がある。
- コストの増加: 早めに透析を始めることは、医療費が増加し、必要なスタッフや透析の機械の増加を必要とする。
- 生活の質への影響: 透析による時間的や身体的な拘束が早期から負担となりQOLへの影響を及ぼす可能性がある。
遅延透析導入のメリット
- 腎機能の保持: 自分の腎機能を早期導入に比べてより長く活かせる可能性がある。
- 心血管イベントのリスク低減: 一部の研究では、遅延透析が心血管イベントのリスクを低下させる可能性があると報告されている。
- 社会的支援の強化: 透析導入までの期間をなるべく長く確保することで、周囲のサポートや社会的支援などを得られる準備が整う可能性がある。
遅延透析導入のデメリット
- 死亡リスクの増加: 透析導入を遅らせることで、透析導入により回避できた可能性のある死亡リスクが回避できず死亡率が上昇する可能性がある。
- 急性症状の出現: 透析を遅らせることで、急激な尿毒症症状を発症し、緊急的な治療が必要になる可能性がある。透析に必要な内シャントなどのアクセスが準備できていない場合にはカテーテルでの緊急導入となり、カテーテルによる合併症の発症や長期入院のリスクとなる。
- 生活の質の低下: 進行したCKDの状態が続くと栄養状態が低下し、筋力の低下などを伴い、全体的なQOLが低下し、透析導入後も改善が乏しい可能性がある。
少し長くなってしまいそうなので、次回のブログで各国の透析導入のタイミングのガイドラインや臨床研究の結果などをお伝えしていきます。